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「雨があがるようにしずかに死んでゆこう」八木重吉
草をむしる
草をむしれば
あたりが かるくなってくる
わたしが
草をむしっているだけになってくる
八木重吉の詩はとてもシンプルだ。文字も少ないし、漢字も少ない。
聞こえてくる音も少なくて、読んでいると、シンプルさの中にあるエアポケットに、すとんと落ちたような気持ちになるときがある。
地面からは見えない穴の中で、誰にも見つからないかもしれないと、怖いくらいに孤独だったりする。
小さい空は見えてもそれだけの空で、それだけの青色やそれだけの雲しか見えないのだ。
でもそういう場所は、一度は落ちなければならないのかもしれない。
「幸福な人間に物語はない」
そう言い切ったのは、彫刻家のルイーズ・ブルジョワだ。
彼女ほど意識的ではないにしても、この詩人にも、どうしても埋められない穴と、自分の詩作との切れない関係が見えていたのかもしれない。
「家庭はいかにも温暖そうなのに彼の顔は霙のようにさびしそうだった。」
八木のもとを訪れた詩人の草野心平は、そう書き残している。
生前認められることのなかった八木の詩を、草野は高く評価していた。
雨があがるようにしずかに死んでゆこう
「雨」というタイトルの詩をそう結んだ八木は、結核のため、二十九歳で亡くなっている。