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ちびたの本棚 読書記録「恋ははかない、あるいは、プールの底のステーキ」川上弘美

私小説のような、エッセイのような、ただ過ぎていく日々の物語り。
結婚、離婚、病気など、人生に起こるあれこれはあるけれど、ゆるゆると時間は経ち、小さい頃に異国で過ごした幼なじみが年を取ってまた集う。背景には時代を反映してコロナや介護もある。

幼なじみの3人の関係に、親友という言葉を当てはめるには気恥ずかしく大仰だ。
適度な距離感でお互いを思いやれる、年齢を重ねているからこそ、そういうつながりができるのかなと思う。

ある文章にしばしページをめくる手が止まった。

「年に何回かやってくるさみしさが、うっすらと体に満ちてくる」

主人公が昼寝から覚めた夕暮れに、ふと感じたさみしさ。平易なことばで綴られているせいか、よけいにそのしんと静まりかえった底の見えない不安や孤独が感じられる。
あたりまえだけど、自分だけではない、誰にでも不意に訪れるこういう時間がある。

読んでいる間、幾度か川上弘美さんの他の作品の登場人物の気配を感じた。ニシノユキヒコ、妙子、ヒトミ、ツキコ、修三…

年を経て何度も読み返したい、そんな物語りだ。


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