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ガラスの靴 #日常の道具たち

 この前ショッピングモールに行ったとき、こどもがパタパタ走っている姿を見た。その子が履いている靴は歩くと靴の底あたりが光る靴だった。ちょっと先ではクロックスを履いた子もいた。私のこども時代とずいぶん靴にも違いがあるものだと思う。

 私がいた保育園では、夏の時季に女の子は皆「ガラスの靴」と呼ばれる、サンダルを履いていた。もちろんガラス製ではなく、ゴム製だ。靴自体はヒールのないパンプスの形をしており、夏のサンダルなのでクリアな色合いのピンク、オレンジ、イエロー、水色のものが多い。どの靴にもラメが入っていたはずだ。靴にはゴムが編まれたかのような模様が入っている。サンダルなので、編み目は穴が開いており通気性は抜群。「靴」とは言いながらサンダルなわけだがしかし、大人になって履くパンプスのように歩くとカッカと音がするのがよかった。ちょっとだけ大人になった気がする夏だけの履き物。履けるこの時季の楽しみだった。 今でも同様のものが売られているようだ。花やリボンの飾りが足の甲の部分(ヴァンプ)についているところは私のこども時代とかわらないが、最近のものはディズニープリンセスが中敷きにプリントされているらしい。豪華になったものだ。

 保育園の友達はクリアピンクでラメの入った靴にさくらんぼのついたものや、クリアオレンジにひまわりのついたものを履いていた。私の靴はクリアな色合いではあるものの、ラメつきの黄緑色で小さめのぶどう、パイナップル、りんごといったフルーツが集合した飾りがついたものだった。

 小さいころから「女の子らしい」ものに違和感があった。今でこそ濃いめのピンクのペンケースも遠慮なく持つし、オレンジのTシャツもごく当たり前に着ている。しかし、こども時代は女の子っぽい色、髪型に抵抗があった。「人と一緒はいや」という気持ちもあった。

 そんなわけで私の「ガラスの靴」は「花もついてないし、ピンクでもないから」という消極的な理由で黄緑色でフルーツ、というチョイスになったのだった。今よりも商品のカラーバリエーションがなかった時代、母親から「こっちのピンクがかわいいよ」という声に対し「こっち!」と指さした。何に対するものかわからぬ、ささやかな抵抗だった。

 今なら思う。こども時代の私はどんなガラスの靴を履きたかったんだろう。消去法なんて悲しい選択法ではなく、何ならよいと思って履いただろうか。手堅いのはクリアブルーの靴だが、当時はすでに履いている友達がいたので確か諦めたはずだ。だれかとおそろいがいやなのだったし、店で見たクリアブルーにはひまわりがついていた。小さな私としてはアウトだろう。

 結論は出ないが、「人と一緒はいや」と思いながら「ガラスの靴」は履いたあたり、周りにそれなりに流されるタイプだったんだと思う。人とは違う黄緑色のガラスの靴を履きながら、友達とブランコに乗り、バッタを追いかけ、それなりに楽しかった夏だった。

 保育園を卒業する前、親戚から送られた赤のランドセルに「黒がよかったな」と心の中でつぶやいたのは、また別のお話。

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