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好きそうな顔
「ガリ好きそうな顔してるのにね」
友人に言われた言葉が忘れられない。
彼女とは大学の同期で、お互い就職して社会人になっても、どちらからともなく連絡して定期的に会い、独身時代は休みを合わせて旅行に行く仲だった。
10年以上前になると思う。
その日は休みを合わせて東京旅行に出かけ、お互いの行きたい場所を回る事になっていた。
友人が選んだ先は“築地”だった。
食べる事が大好きな私。
反射的に海鮮の口になり、友人の提案を喜んで受け入れた。
〜築地に向かう道中〜
私 私お寿司は大好きなんだけどさ、ガリは苦手なんだよね。
友人 そうなの?ガリ好きそうな顔してるのにね。
私 え?
友人 私さ、生魚ダメでお寿司食べられない。
私 え?(2回目)
まさかの角度から友人のカミングアウト。
生魚が食べられないのに、築地に行きたいと言った彼女の目的とは一体何だろうか。
友人に聞くと「築地の雰囲気を見たかった」との事だった。
とにかく食べる1択だった私は、そういう目的もあるのかと驚いた。
私 あのさ、ここまで来たら私お寿司食べたいんだけど、1人で食べてもいいかな?
どうしても我慢できそうになかったので、友人に確認すると「いいよ」とすぐにOKが出た。
築地場外市場に到着すると、“どて煮”“卵焼き”など生物以外のメニューもあり、ひと安心。
まずは友人の目的である“築地の雰囲気”を味わう。ブラブラしながら、2人で何を食べるか考える。
ただただ楽しい時間。
食べ歩きを楽しんでいると、屋台のお寿司屋さんを発見した。
私 ちょっと行ってくるね。別行動する?
友人 待ってるよ〜
そう言ってカウンターに座る私の横で、友人は立ち見して待ってくれる事になった。
注文をすると、目の前で板前さんが握ってくれる。贅沢だなぁと思う一方で〚1人だけ食べるの気まずいなぁ〛と思いながら待つ。
寿司下駄と呼ばれる木製の台に、握りたての寿司が乗って目の前に届く。
カッパ巻きがピカッと光って見えた。
〚これだ!これなら一緒に食べられる!!!〛
私 カッパ巻き食べる?
友人 きゅうり苦手なんだよね。
私 え?(3回目)
救世主かと思われたカッパ巻きは、友人の苦手な食材だった。
ちなみに友人は生魚ときゅうり以外の好き嫌いは本当になく、普段は何でも美味しく食べるタイプだ。
ここにきて苦手な食材が被ってしまった。
私 じゃあ…ガリ食べる?
私はガリのみを食べる友人に見守られながら、黙って1人で寿司を食べた。
あれから時は流れ、私達は結婚しお互い地元から離れた場所で暮らしている。
会えない間、私はピクルスにハマり、とりあえず甘酢に漬ける作業を家で繰り返していた。
ある日スーパーで新生姜を見て、とりあえず漬けたくなった。購入した新生姜を薄く輪切りにし、サッと湯引きしたあと甘酢に漬ける。
なかなか美味しくできたので、夕食で新生姜のピクルスを出すと夫が「このガリ美味しいね」と褒めてくれた。
、、、ガリ?そうか。これはガリなのか。
苦手だったガリが、食べられるようになった。
いや、むしろ好きになっている。
久しぶりに友人に連絡をしたくなった。
あの頃よりも、私は“ガリが好きそうな顔”になっているだろうか。
自撮り写真を送りつけてみようと思う。