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読書感想『サンショウウオの四十九日』


電子書籍で購入した私はひどく後悔した。

また、例の如く、無料かのように、気づけばKindleの購入ボタンを押していて、自分の意識のないところで、全てが完結しており赤々とひかる「ご購入ありがとうございます」と光る文字。本当に電子書籍怖い。
ボーナス全てを電子書籍に注ぎ込んでるんじゃないかと不安になるが、なんとなくボタンを押してるだけで、お金を払ってる感覚がないので、とりあえず考えないことにする。

そして、「サンショウ四十九日」結論から言うと、紙で買っておけばよかったーーー。

人生を通して何度も読み直したいと思った。
電子書籍でも何度も読み返せるけど、紙として宝物として人生の側に置いておきたくなった。

まず目に留まった理由は、芥川賞受賞作ということよりも「双子の話」だったからだ。
実はかくいう私も双子なのである。共感性の高い双子が主人公の話は珍しい。双子の片方が主人公の場合はあるが、2人共が主人公で、客観的視点じゃなく主体的視点で進んでいく。

当たり前だが、私は双子の片方の経験しかない。2人視点の感覚は知り得ない。
もっとも私の場合、二卵性双生児であり、より共感性の高い双子の気持ちが気になった。

そして、四十九日というタイトルも引っかかる。よくある「一生」ではないのか。
「サンショウの一生」ならば購入ボタンが押されることもなかったのかもしれない。
四十九日で不穏を感じ、読んで、その心の不安を解決したくなった。

読み進めると、作者がお医者さんということもあり医学知識や医療現場のリアルな描写に引き込まれる。
学の乏しい私には聞き慣れない言葉もありKindle電子書籍の検索機能を使いまくった。(ここだけは電子書籍でよかった。)

宗教学や化学など等専門的な書物に精通してる主人公がら導き出した哲学的解釈はとても心地よくすんなりと私の先入観に入り込んだ

【特に好きなシーンはここ】

思考は自分で、気持ちも自分、体もその感覚も自分そのものであると勘違いしている。自分の気持ちが一番大切、なんていう言葉を聞くたびにニヤニヤと含み笑いをしてしまう。単生児は自分だけで一つの体、骨、内臓を保有していて思考や気持ちを独占する代わりに、その独占性に意識が制限されている。いや、意識を制限しているのは、この思考や気持ちは自分のものだという傲慢さによるものだ。自分の体は他人のものでは決してないが、同じくらい自分のものでもない。思考も記憶も感情もそうだ。そんな当然のことが、単生児たちには自分の身体でもって体験できないから、わからない。単生児だけでなく、生まれると同時に離れる非結合双生児もそうだろう。とにかく、自分だけのものとして使いこむことによって、彼らの意識は脳だったり、心臓だったり、一つの臓器とむすびついてしまうようだ。デカルトの「我思う、ゆえに我あり」な人たち、つまりは脳が、思考が、自らの意識を作り出していると考える医者や科学者たちがどれだけ結合双生児の研究を進めようとも、たどりつく結論は一つで、主観性を省いて客観性のみで証明する科学論文で双生児たち二人の思考が主観と客観を越えて統合されていると証明することになる。そして、自ら論文で証明しておきながら皮肉なことに、誰とも繫がっていない彼らは自分と相手、その主客の統合がなされる感覚を自分では実感できず、ただ自らの主客の分裂に打ちひしがれる。自分も結合双生児として繫がって生まれていれば心底から理解できただろうに、と嘆くことになる……

サンショウウオの四十九日


結論だけの述べずに、持論を深めるだに何度も繰り返される解釈。
まるで波が押したり引いたりするように行き来しながら、徐々に深まっていく持論。それが文章によって表現されてるところがすごく気持ちよくて好きだ。
頭が良い主人公だが、まだ若いが故、優越感から、自分と違う見た目の人間を「単生児」と言う言い方で呼ぶところも、愛おしい。

【叔父の死後、思考が止まらない杏のシーン】

たった一文の中で、双子の全く別の思考が交差する場面もも圧巻だった。
次々の双子の思考が入れ替わり、その文章の中身というより文章構図自体が双子の思考が行き来する煩わしさを表していて、それでいて、ごちゃごちゃにならず、双子のどちらが考えていることなのかわかるのが不思議だった。

エスパーでもなんでもない私が、「誰が言った」とも書かれていない、段落やましてや句読点も打たれてないような区切られていない一文で主人公が入れ替わってるのに、どっちの思考か分かってしまう文章力。

あっという間に朝比奈秋先生のファンになってしまい、他の作品もいつの間にか買っていた。

来月の口座残高見て悲しくなりそうなので、そろそろKindleとクレカの連携をといた方がいいのかもしれない。

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