『ふしぎな地図』
秋のやわらかな日差しの中、
けいこさんとふみおくんは、
喫茶店のテラスでお茶を楽しんでいます。
ふみおくんは、深呼吸をして風の音に耳を傾けます。
「おねえさん、風さんが、今日は楽しいことが起きるって言ってるよ。」
「風がそんなことを?ふみおちゃんて、本当に不思議な子ね。
でも、どうしてそんなことがわかるの?」
「え〜と、ぼくは『見えない世界』を感じるの。
おねえさんも、きっと感じたことがあるはずだよ。」
けいこさんは、ふみおくんの言葉に少し驚きながらも、微笑みながら答えました。
「そう言われると、子供の頃には、不思議な夢を見たり、知らない場所なのに懐かしく感じたりすることがあったわ。でも、大人になると、そんな感覚は『空想』だと思って忘れてしまうのよね。」
ふみおくんは、にっこりと笑って言いました。
「それってしかたないの、おねえさん。
あのね、だれでも、
大人になると、わすれるようになってるの。
でも、おぼえていることもあるんだよ。
それを、思い出せる『ふしぎな地図』があるんだよ。」
「ふしぎな地図?ふみおくん、その地図ってどんなものなの?」
「あのね、生まれる前にね、みんな見えない世界から『地図』をもらってくるの。その地図には、どんな道を歩むか、どんな人に出会うかが描かれているの。でもね、その地図のことは、わざと忘れてるんだよ。」
「わざと?どうしてそんなことをするの?」
ふみおくんは、目をキラキラと輝かせながら答えます。
「だってね、おねえさん。みんな、この世界にお勉強しに来ているの。
もし、はじめから答えがわかってたら、ちょっとズルになっちゃうでしょ?
だから、地図のことはわすれてるの」
けいこさんは、その言葉に驚きました。
そしえ、納得するように頷きました。
「そういうことだったのね。
確かに、試練と出会った時、それを解決するための答えが、
初めからわかっていたら、成長することができないわね。」
「うん。そうなの。でもね、おねえさん。〈ほんとうの心〉にそっと耳を傾けると、地図がヒントを教えてくれることがあるんだよ。懐かしい気持ちや、デジャヴは、その地図がちょっと見えた瞬間なの。」
「ふみおくん、〈ほんとうの心〉って、なあに?
私にわかるように、教えてくれる。」
ふみおくんは、キラキラ舞い散る銀杏の葉を見ながら、
「ほんとうの心というのは、
ぼくたちの心の、いちば〜ん、深いところにある真理のことなの。」
と優しく教えてくれました。
「ふみおくんって、本当に賢いのね。あなたのお話を聞いていると、
私、とても安心するわ。」
ふみおくんは、けいこさんの人差し指を、小さな手で優しく握ってこう言いました。
「だから、おねえさん、心配しなくていいの。
街中のみんなも、心配しなくていいの。
世界中のひとも、心配しなくていいの。
誰でも、ちゃんと自分の地図を持ってるの。
だから、
もし、迷子になった気がしても、
〈ほんとうの心〉にたずねると、地図さんが、行き先を、おしえてくれるの。」
けいこさんは、ふみおくんの言葉に目を潤ませながら、微笑んで答えました。
「ありがとう、ふみおくん。あなたの言葉、まるで私のお守りみたいだわ。」
次の瞬間、
けいこさんは、何かに気づいたように、ふみおくんを強く抱きしめました。」
「なんなの、なんなの、おねえさん!」
「ふみおちゃん、私、ふしぎな地図を、見つけたわ!」
「えっ!それって、どこにあるの?」
「私の腕の中よ!
あなたこそ、私の地図だわ!!」
秋の木漏れ日が、ふたりを、やわらかく包みました。
⭐️⭐️⭐️⭐️⭐️
今日は、こんな、ひとかけらを、お届けしました。