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2022年度 五野井ゼミ カール・シュミットから国際秩序を考える

 2022年度の五野井ゼミは、今般のロシア・ウクライナ戦争と非民主的な国際秩序について考えるべく、カール・シュミットを講読します。蔭山宏先生の『カール・シュミット』から入り『政治的なものの概念』『陸と海』『政治的ロマン主義』等読み進めます。月曜16時半から。学生/社会人の皆様の聴講も歓迎します。変なオンラインサロンが多い中、まともな学知をみなさんに社会還元することも目的としているので、五野井ゼミは無料です。初回は4月18日からです(今週は準備週として事前にテクストや動画教材等をお送りします)。ご参加になりたい方はこちらのnoteか五野井のfacebookからご連絡ください。基本は対面で行いますが、zoomでの参加も可能です。

 まずは蔭山宏先生の『カール・シュミット-ナチスと例外状況の政治学』(中央公論新社)でシュミットの思想を概観し、「自由で開かれた」や「リベラル」な価値観、議会主義などを前提とする自由民主主義秩序が当たり前に通用しない世界線を追体験します。

 
 その上でカール・シュミット『政治的なものの概念』(未來社)の「友/敵」概念、すなわち「汝らの敵を愛せ」(マタイ・ルカ伝)が、じつは「汝らの私敵ら〔inimici〕を愛せ」であり「汝らの公敵ら〔hostes〕を愛せ」ではないことの区別からシュミットの多元主義批判を観ます。

 [追記]ちなみに2022年8月には権左武志先生による『政治的なものの概念』の新訳が岩波文庫から出版されました。ヨリ読みやすくなっているので、おすすめです。


 前述の「友/敵」概念を踏まえた上でカール・シュミット『陸と海 世界史的な考察』(日経BP)では、ホッブズをベースに国際社会の形成と国際法の整備を通じて空間秩序〔Raumordnung〕の展開や、クラウゼヴィッツ、マハン、ドゥルーズら戦争論の古典の議論も検討します。これらを通じて通俗的な流行っている「地政学」の雑さも確認します。


 本来カール・シュミットの『陸と海と』は以下の生松敬三・前野光弘訳のほうがよいのですが、入手しづらいためやむなく入手可能な日経BP版にしています。繰り返しますが、現在「地政学」を名乗っている多くの書籍は地政学にとって不可欠な「空間秩序」概念を押さえていません。


 ゼミの中盤では、カール・シュミット『大地のノモス』は新田邦夫先生の訳が難解なので『陸と海と』の前後で、わたしが解説します。ここでは「友/敵」概念は、世界を分ける秩序線たる教皇子午線やトルデシリャス条約、サラゴサ条約以降のラヤ〔Raya〕や友好線〔Freundschaftslinien〕へ延び、20世紀にかけてしだいに世界を覆います。


 今回のロシア・ウクライナ戦争でわたしが懸念しているのは、国際社会を覆っていた国際法秩序に再び亀裂が入り、シュミットが説く「ラインの彼方」の自由な戦争空間が各地で招来されることです。そこは計算尺で測定可能な力の空間としてのみ存在し、国際法が無視されることを国際法によって規定する空間です。その亀裂を生じさせる行為は過去しばしば独裁の権威主義体制国家によって、あるいは帝国主義的な振る舞いをする民主主義国家によって引き起こされてきました。
 なおカール・シュミット『大地のノモス』原書は以下より無料PDFが入手可能です。グローバルに線を引く思考から現れた「ラインの彼方」の自由な空間は闘技(agon)能力の測定領域たる戦争の空間となり、ヨーロッパ公法からなる国際社会が是認するアナーキカルな圏域となりました。

https://gedankenfrei.files.wordpress.com/2009/11/e-book-carl-schmitt-der-nomos-der-erde-1950.pdf

 
 ではなぜ今回プーチン大統領は新ユーラシア主義やロシア宇宙主義等のロマン主義の亜種に絡めとられ、自身に魔法にかけてしまったのでしょうか。彼の反欧州普遍主義への傾倒を深く考えるためにカール・シュミット『政治的ロマン主義』(みすず書房or未來社)を読み進めます。
 未來社版のカール・シュミット『政治的ロマン主義』は思想史家で丸山眞男弟子の橋川文三による訳で、みすず版が野口雅弘さんの解説で大久保和郎さん訳です。どちらも原書と並べて読んでもよいですね。同書には正統性vs自由主義、審美主義とロマン主義の弁別が描写。やはりプーチンはロマン主義の先にいるのだろうと考えています。

 
 プーチン大統領とロマン主義については、 美術評論家・哲学者のボリス・グロイス(ロシア宇宙主義の専門家でもある)が、以下e-fluxで同様の意見を述べています。グロイスの該当箇所をパラフレーズしておくと、以下の通りです。

「これは普通の西欧の保守的な態度に過ぎないのだ。特殊ロシア的なものは何もない」・・・「それは、何か別のもの、何か疑似的なドイツ的なるものだ」

 ここでいう「疑似的なドイツ的なるもの」こそが、ロマン主義です。とまれグロイスの議論には賛成しかねるところもあります。グロイス本人にとっては不愉快でしょうが、わたしはプーチン大統領には「新ユーラシア主義」と「ロシア宇宙主義」も影響を幾ばくか与えており、特殊ロシア的なものも入っていると考えています。以下はグロイスのテクストです。ぜひご覧下さい。


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