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スタートアップにおけるSO設計の概要を言語化してみた

お久しぶりです、すとうです。X⇒(gomashioJr)
今年も早いものでアドベントカレンダーの季節になりました。Asobicaの癒しキャラでありながら、経営数値管理のすべてを司るODAさんからバトンを受けて、今年は3番手の登壇となります。
ちなみに、PRチームからは当初、「すとうさん、今年もアドベントカレンダーお願いしていいですか?一人で全部。」という無茶ぶりをいただきました。後で聞いたら8割本気だったみたいです。
ちゃんと一緒にアドベントカレンダーの記事を書ける仲間が集まって心底よかったです。全体スケジュール以下の感じです。https://adventar.org/calendars/10745

さて、本日のメニューですが、去年、今年と税制改正に伴い内容が急激に変化しているストックオプション(以下、SO)の設計について、オーソドックスな考え方を取り上げたいと思います。
アドベントカレンダーらしからぬ、コアな内容の記事ですが、ゆっくりしていってください。


読んでもらいたい方々

税制適格SOを発行している、または今後発行する予定のあるスタートアップ企業のSO管理担当、資本政策担当に届いてほしいと思っています。
スタートアップ成長を支援する国策の影響もあり、去年、今年の税制改正では、税制適格SOの内容が、以前に比べてかなり付与者にとって有利な内容になりつつあります。
そんななか、SO発行したいけど、付与ルールとかインセンティブ設計ってどうやったらいいの?実際の発行実務ってどうればいいの?みたいな声も聞くので、自分の頭の整理も兼ねて、今回noteで取り上げようと思いました。
なお、今回の記事で取り扱うSOは、スタートアップが主にメンバー向けのインセンティブとして発行する税制適格SOを前提にしています。

ちなみに2024年3月31日以前に、税制適格SOを発行していて、令和6年税制改正の特例措置の対応をしていない方は速やかに対応することをおすすめします。対応期限は2024年12月末までです!!前回のnote記事で取り上げているので、よろしければご覧ください。

SOのインセンティブの算出式

まず、SOって最終的にどれくらい儲かるの?という話ですが、計算要素をご紹介したいと思います。

①付与個数×(売却時の株価-権利行使価格)=売却益
②売却益×(1-税率)=最終利益

数値を仮で当てはめためモデルケースだと、以下の通りです。

【前提】
付与個数100個
SO権利行使価格は100円
売却時の株価100,000円
税率は20%
【計算式】
①売却益=100個×(100,000円-100円)=9,990,000円
②税引き金額=9,990,000円×(1-20%)=7,992,000円
7,992,000円が最終利益、すなわち個人の手元に入る利得となる。

ここでお伝えしたいのは、付与個数だけじゃなくて、権利行使価格=(ざっくり言うと付与時の株価)や、売却時の株価も、最終利益において大きな変数となる点です。
(意外に、付与個数だけが変数と勘違いしているケースもあるので、そこは注意されたし。)

SO設計のオーソドックスな考え方

それでは、SOにおけるインセンティブの計算要素を理解した前提で、実際どうやってSOって設計していくのか、考慮すべき論点をつらつら書いていきたいと思います。

そもそもどれくらい配れるのか-SOプールの考え方

VC等の外部株主から資金調達をした企業の場合、役職員向けに配れるSOの総量は、大抵の場合、株主間契約書に定められています。
ひらたくいうと、「発行済株式の●%までは、役職員向けにSOを配っていいよ」という定めですね。
SOプールの割合が多ければ多いほど、役職員向けにSOを多く配れるので、人材獲得の手段に利用したり、高いインセンティブを役職員に与えることができます。
一方で、VC側からすると、SOプールの割合が大きいと、VC側の持分が減るという構図になるので、このあたりの利害調整はしっかりと対話して、SOプールの割合を着地させる必要があります。
4~5年前はだいたい10%くらいが相場感のイメージでしたが、ここ2~3年では15%が一般的な目線感で、場合によっては20%確保しているケースも出てきている肌感があります。

ちなみに、私が過去に見てきた会社の中でも、10%を下回ると、結構少ないSOプール割合となる印象です。10%を下回ると、配れるメンバーは限定せざるを得ないし、新たなキーマン採用の手段にもSOを利用しづらくなるため、諸々のアクションがかなり限定されて苦労したという話は聞きました
また、社内メンバー間で断絶が生じるリスクはあるけど、役員クラスにしかSOを付与しない、と割り切った設計をしているところもありました。
ちなみにこのSOプールですが、会社の登記簿謄本をみると、見る人が見ればどれくらいの割合か読み取れたりします。

総論:付与する際に考慮する3要素

誰に対して、何に対して、SOを付与するのかという点においては、一般的に、大きく以下の3要素を考慮するべきと考えられます。

①入社時期⇒アーリーフェーズにリスクをとって早期入社してくれたことに対する対価。入社が早い時期だと、SOの権利行使価格が低く設定しやすいので、リターンも大きく見込める。無事にイグジットできればだけど。

②前職からの条件補填⇒前職から年収を大幅に落としてくれてでも入社してくれたことに対する対価。50%以上落としてくれる人とかもいる。ご家庭をもっている方の場合、SO付与することが、ご家族への説得材料にも使ってもらえたりする。

③パフォーマンス⇒事業成長に多大なる貢献をしてくれたことに対するインセンティブ。一番付与数に影響がある要素。入社してからしっかりパフォーマンスし、将来的にも会社にコミットしてくれる人へのインセンティブという位置づけという考えが一般的。

各論:条件設計に関して考慮する要素

昨今、税制改正やスタートアップエコシステムの進化により、SOの権利行使に関しては、かなり使い勝手が良くなっている傾向にあります。
このあたりの情報をきちんとキャッチして、自社のSO設計に活かすことも重要です。(そうしないと、どんどん取り残されちゃうので。)
最近では、以下の要素を考慮して、カスタマイズしながらSOの条件設計を行うイメージになるかと思います。

①べスティング
「この条件を満たしたら、SO権利行使できるよ。だから、一緒に事業成長に向けて頑張ろうね」というもの。
一定期間以上の在籍を必要とする在籍期間要件、ある時期までに売上●●円、利益●●を達成を必要とする業績達成要件等がある。
最近は、「付与時から4年間在籍したら、すべてのSOを権利行使可能(フルべスティング)」という要件が多い。一昔前は「上場してから4年間在籍したらフルべスティング」という要件であり、権利行使のハードルと確度がかなり厳しく、あまりワークしていなかった。

②ポータビリティ
退職した後も、一定の条件を満たしていれば、一定の数のSOをそのまま保有していいよ」というもの。
ここ2~3年で広がった設計。従前は、退職して、役職員の地位を失ったら、SOはすべて失効という作りが一般的だった。適切なフェーズで、適切な貢献をしてくれたメンバーに対して、上場前のタイミングでなんらかの理由で退職した後も一定のインセンティブを渡すことが目的。

③権利行使要件
令和6年税制改正の影響を受けて、絶賛ベストプラクティスがアップデート中。
従来は、上場しないと、税制適格を維持したSOの権利行使は実質的にできなかった。
令和6年の税制改正の保管委託要件の緩和に伴い、未上場時でも税制適格性を維持したSOの権利行使がしやすくなった。具体的には、未上場時にM&Aで会社が買収された場合でも、税制適格性を維持したSOの権利行使がやりやすくなり、役職員においてはイグジットの手段が増えたというメリットがある。
とはいえ、資本政策の観点からすると、未上場時に役職員が株主として増えると管理コストがかかったり、株主総会の議決権行使集めに事務コストがかかったりするデメリットがあるので、このあたりのメリデメを考慮しながら、未上場時のSO権利行使要件を定めることが重要。

④付与タイミングをいつにするか
どのタイミングでSOを付与するか。SO発行には株価算定レポートの取得や、登記対応に係る費用など、結構コストが発生します。なので、こまめに発行すると意外にコストがかさむので、年1回、多くても半年に1回程度の頻度が一般的かと思います。
ちなみに、上場を見据えた場合、会計基準上、各年度末におけるSOの含み益を有価証券報告書における注記事項として記載する必要があるので、SOの発行は期末前3ヶ月以内にしておくとよいです。このあたりの細かい発行実務はニーズがあれば次回noteで書こうかと思います。

⑤権利行使価格の設定
SOのインセンティブにダイレクトに影響を与える権利行使価額ですが、こちらは昨年度の令和5年税制改正を受けて、大きく実務が変わっています。
詳細は割愛しますが、税法の時価を用いることで、赤字スタートアップ企業においては、極めて低い価額を権利行使価額に設定することが認められました。(いわゆる1円SOといわれる設計。)
ただし、資金調達や、上場時の株価にも少なからず影響を及ぼす可能性があり、また、会計基準との整合性を確認する必要があるので、弁護士、税理士、会計士の各専門家に相談をして設定する必要があります。

まとめ

つらつらとSO設計に関する考慮すべき事項を書いてきましたが、本質としては、「①誰に対して」、「②何に対して」、「③いつ」、「④どのくらいの量」、「⑤どのような権利行使要件にするか」を、上記の要素を組み合わせながらSO設計するイメージかと思います。

論点をつらつらまとめたスライド図


当然ながら組み合わせはいろいろなパターンが想定されるため、それゆえ、SO設計に関しては一般的な正解というものがありません。なんなら、税制改正等により、考慮する論点が増減します。
私がIPOアドバイザリーを通じて今まで関与してきた会社でも、本当に千差万別でした。ただ、SO設計に関して、「うちの会社はこの思想に従い、このルールでやってく。」という確固たる信念はありました。
会社のポリシーをしっかり決めたうえで、ブレずに運用することが重要となります。

ちなみに、上記の要素を考慮して、しっかりSO設計して、実際にSOを発行すると、べスティング管理、ポータビリティ増減、退職者がでた場合の失効手続き、登記対応等々、複雑な管理対応が要求されます。将来的には、SOの権利行や売却が発生したりするといよいよ管理が追いつかなくなるリスクが生じます。しかしながら、役職員のお金にかかることで、法定対応が要求されることもあり、決してミスが許されません。SO管理者は、このようなミスが許されない環境で、常に孤独に戦っています。たまには優しい声をかけてあげてください、泣いて喜びます。
なお、そんなペインを解消するSaaSとして、最近ではNstockさんのプロダクトがリリースされています。弊社はまだ導入できていないのですが、権利行使が近づいたタイミングで必ず導入しようと心に誓っています。


さいごに

今回の記事を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
明日は、Asobicaで一番イケてるいけちゃんがマーケやCSの経験を投稿してくれます。
ということで、Asobicaではいろんなポジションで仲間を募集しております。ご興味ある方は是非下記をご覧ください。ビジネスサイドからエンジニアまで、幅広く募集させていただいております。
気になったらお気軽にカジュアル面談等でお話しさせてください!


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