大好きな雨音
わたしの心の中には小さな小さな街があります。大好きなシュークリームを食べた日にはカラッと晴れた空に小鳥たちが楽しそうに飛びまわり、それが売り切れてた日には仄暗い雲に覆われ小鳥たちが急いで巣へと帰ります。サワサワと自然豊かな街の真ん中には大きなマンションが一つだけ建っており、最上階の大きな部屋にわたしは住んでいます。大好きな友達は1個下の階に、気になるあの子は少し離れた3階に。
そしてある日、知り合いにオススメされて足を運んだライブイベントでわたしは1人のバンドマンに恋してしまいました。同い年で櫻井くんに似ていてよく笑うその男性は、突如わたしの街へと飛んできました。ぴゅーん、ぽすんっ。空から降ってきた男性が尻餅をついて不思議そうに辺りを見渡します。そんな男性の元へ手紙を咥えた白いフクロウが肩にとまり、その手紙を開けてみると「ようこそこの街へ!あなたのお部屋は101号室です」と書かれていました。わたしはその男性に嫌われないように、できるだけ広くて日当たりのいい部屋へと案内し、彼好みのイタリア製ギターも置いてあげました。
でも、男性は居心地悪そうに口をしかめます。
「何が欲しいですか?」「一階はお好きじゃないですか?」と何通もフクロウに託しますが、彼からの返事はありません。自分が情けなくなり最上階から一階を見下ろしながらため息を吐くと、肩にフクロウがとまりました。手紙を持ってきたわけでもなさそうで、また深いため息を吐くとほっぺをツンツンと突かれ、目をやると首元に水色の紙が巻かれています。巻き取って見るとそこには小さく「ごめんなさい。 僕には何もできない。」と書かれていました。ポツン……ポツン…、雨が降ってきました。フクロウも慌てて巣へと帰ります。
ひとりぼっちになり、雨が入ってこないようにと窓を閉める手をかけた時、花が揺れるようなギターの音色と歌声が聞こえてきました。木製の椅子をいそいそと寄せ、窓際に頬杖をついて耳を澄ませます。雨のリズムも楽しむようなそのメロディーが、歌声の寂しげな表情をくっきりと映しました。
僕はまるで標本の蝶々
綺麗だからと剥製にされ
広くて窮屈な箱に飾られる
彼の言葉は優しいメロディーに包まれ、わたしの心をえぐります。次の日の朝、晴れ晴れとした庭で伸びをした後、マンションに火をつけました。全て燃やして、燃やして、全てを燃やしました。色とりどりの美しい蝶々たちが、キラキラと光る炎に集まり、楽しそうに自由に飛び回りました。