マニックピクシードリームジジイ
あと数時間したら、2023年が終わる。
皆さんは2023年を過ごしたのだろうか。
好きな人と結ばれた2023年。
仕事が上手く行った2023年。
結局HUNTER×HUNTERが再開しなかった2023年
僕の2023年は「正義感が失われかけた2023年」。仕事でも日常生活でも、人に親切にされるだけで、人に親切できていない。
自分の中に正義感はまだあるのか?
正義感の輪郭がザラザラと崩れている感覚のある年だった。
一昨日までは。
なんと一昨日、正義感を取り戻すビッグチャンスが到来したのだ。
それは仕事納めの帰り道、最寄り駅近くの駐輪場に自転車を取りに行った時のこと。
自分の自転車の施錠を解除している間、ワイヤレスイヤホンが奏でる音楽の背後から、ガシャン…ガシャン…!という音が聞こえた。
レミオロメンの粉雪にこんな雑音は収録されていない。
粉雪を止め振り返ると、自転車をラックに入れられずに手間取っているおじいさんが目に映る。
両隣のママチャリのカゴが邪魔をして、おじいさんの自転車が入らないのだ。周りの人は思い思いの年末しか見えていないのか、助けに入る様子はない。
ここを逃したら、もう2023年に親切するチャンスはない。
正義感を取り戻すんだ。
おじいさんに駆け寄る。
近付けば近付くほどおじいさんの線の細さが目立つ。何故こんなに困っているおじいさんを誰も助けないのだ。
「手伝いますよ」
カゴを除けおじいさんの自転車が入るスペースを作る。少しするとカチャリと音を立て前輪が施錠された。
「ありがとう」
久々に貰った言葉だった。
三島由紀夫の「人間というのは自分のためだけに生きて、自分のためだけに死んでいけるほど強くない」という言葉を思い出す。
三島由紀夫は良いこと言うよ。やはり人間、他者貢献してなんぼなのだ。
立ち去ろうとすると呼び止められる。
まだ何か困っているのかと思った瞬間、握手を求められた。
え。
僕、凱旋?
自転車入れるの手伝っただけでそんな感じ?
色々疑問は残るが、求められた握手を無視するほど落ちぶれていないため応じる。線の細さとは裏腹に力強い握手だった。
来年の抱負は「正義感」だな。
終わり良ければ全て良しの年末を噛みしめる。
改めて自分の自転車の施錠を解除している間、再開した粉雪の背後から、再びガシャン…ガシャン…!という音が聞こえた。
…ループに陥ってる?
8番出口やりたての僕にループはあまりにも身近だった。
振り返ると先程のおじいさんが別の自転車をラックに入れていたためループではないことがわかる。
だが、どういうことだ??
おじいさんがさらに別の自転車に手をかけた時にようやく気付く。通りで周りが助けないはずだ。
おじいさんは、しっかり施錠されていない自転車に料金を発生させようとしてるだけの終わってるジジイだった。
何その正義感。
ルール上、あってるちゃあってるけどもよ。
終わってるジジイなら先程の違和感ありの握手も頷ける。同じ正義感を持つ若者に出会えたのだから。「自転車を無料で止めようだなんて許せないよな!わかってくれる若者が居て安心だ!今後の日本をよろしく頼むぞ!」と熱い握手の1つや2つ交わすだろう。
正義感ってあればいいわけではないのかもしれない。抱負は練り直しだ。
鳴り続けるガシャンガシャンが聞こえないようワイヤレスイヤホンの音量を上げると、粉雪がようやくサビに入る。
喜びも悲しみも 虚しいだけ
粉雪ねぇ 心まで白く染められたなら
音楽って凄い。
心して聴くため自転車は押して帰ることにした。
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