ゴッキンゲルゲル・ゴキ博士の知らんけど日記 その41:「ブラック・ジャック」という奇跡20 ~発作~
第20話「発作」は、1974年4月22日、週刊少年チャンピオン誌に掲載された。
ブラック・ジャックの留守中、ピノコが家に家具屋や内装業者やらを呼んでリビングを改装する。ピアノも買い、おまけに家の建て替えまで計画している。ピノコの希望通り改築するには5億円はかかると業者は言う。そこへ帰ってきたブラック・ジャックは部屋の様子を見て怒り、改装業者を追い返し、運ばせたものを全部返せとピノコに言う。ピノコは世界一の先生にふさわしい家にしようと思ったのだったが・・・。
ブラック・ジャックに改築費の金を稼がせるため、ピノコが患者を見つけてくる。お金持ちのお嬢さん。母は学園の理事で「ひととおり インテリざんす・・・」などと言う。
若い娘は激しい腹痛を訴え、のたうち回っている。ブラック・ジャックは徐々に様子がおかしいことに気づき、ヒステリーだと見抜く。手術をするからと部屋から母を出す。母がいなくなると、ブラック・ジャックは豹変し、娘の服をビリビリと破り剥ぎ取る。娘は逃げ惑い、母に助けを求める。腹痛はすっかり消えている。「おかあさん あんがい 原因は あなたのしつけに あるんじゃないですか?」「まーっ しつれいなっ」「手術は不要です さようなら」「先生・・・・・・診察料を」「ばかばかしい いりませんよ!」と患者の家を去る。
今回もただ働き。そのことを知らないピノコは「手術代もらったれちょ」「ピアノ買ってくれゆ?」とブラック・ジャックに訊く。ブラック・ジャックは「うるさいから ねてる時は そっとひけっ」と言ってドア越しに微笑む。ラストシーンでは、ピノコが嬉しそうにピアノを弾いている。
お金持ちのお嬢さんは、どうやら何一つ不自由なく育ったようだ。ブラック・ジャックに服を破られ、剥ぎ取られ、殴られる。おまけにブラック・ジャックは首まで絞める。こんな目にあったことはおそらく今回が初めてだろう。何不自由なくというのも、恐ろしいこと。「若いときの苦労は買ってでもしろ」「かわいい子には旅をさせよ」「艱難汝を玉にす」。何の不自由もないと心理的成長が難しくなる。患者や母や家の様子からそのことを見抜いたブラック・ジャックは、荒療治に出た。ここまで恐ろしい目にあわされると、おそらく患者の心は「目覚める」「立ち上がる」。このような「治療」を現実に行うことは不可能だが、おそらくブラック・ジャックは一回の「治療」で治してしまった。
かたや、ピノコ。畸形嚢腫の状態からブラック・ジャックによって組み立てられ、想像するのも困難な苦難のなか、でも何一つ不満を口にするわけでもなく、非常識な行動はとるものの、けなげに精一杯生きている。
今回は、何一つ不自由のないご令嬢とピノコとの対比が印象的。治療費は取らなかったが、ピノコにピアノは買い与えた。おそらく、恵まれすぎゆえの病をみて、返すはずだったピアノを買ってやることに気持ちが変わった。ピノコがピアノを弾いているのを、隣の部屋で聴いているブラック・ジャックの表情はどこか満足げで嬉しそう。ブラック・ジャックの父性的な側面の変化がみられる。
日々、文字通り命がけで生きているブラック・ジャックを目の当たりにしているから、ピノコはこれだけのハンディキャップを負いつつも、これまた必死で生きようとすることが可能となっているのであろう。
それにしても、ブラック・ジャックはただ働きが多い。
© 2020 秋田 巌
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