ヒロインに圧倒されて「パラレル・マザーズ」
パラレル・マザーズ(2021)
これはかなり面白かった。
ペネロペ・クルスが可愛く美しいだけでなく、母のたくましさ、恋人や子どもにだけでなくコミュニティすべての人々に注がれる愛情深さが圧巻でした。
年の離れたシングルマザー同士のシスターフッドかと思いきや、実は恋愛。同じ日に出産した母同士で恋愛関係になる(いろいろあったにせよ)こと自体、日本人の私には感覚として理解し難いけど、型通りではない従来の価値観じゃないことについて、さも当たり前に自然なこととして描かれるところもいい。さらに恋愛モードの時でさえ、彼女自身の腹の底に流れる民族、コミュニティへの強い思いを自然に演じられるペネロペ、すごし。
さて、ペネロペはそんな二人の赤ん坊の取り違えに気づいてしまう。しかもあろうことか相手が育てていた本当の我が子が突然死んでしまう。相手にDNA検査の結果を告げなければ。でもそれを告げることは育てた子までを失ってしまうこと。
そんな個人的な事件と同時に通奏的に描かれるスペイン内戦の悲劇の歴史。1936年ごろの内戦で20万人も行方不明になったという。曽祖父の遺骨を発掘しようとするペネロペと親戚、友人、近所の人々の物語も並行して進みます。
赤ん坊問題でニッチモサッチモ解決できず傷つくペネロペはついにある決意を。そして遺骨発掘の問題もやはり同じように進みます。
今まで一見関係なく見えていた個人の問題と歴史の問題が、あらら?つながっていたんだと気づく。やたら出てきた「DNA鑑定」って実は意味が重なっていたんですね。きっと、真実に向き合うことを避けては前に進むことができないんですよ、という強いメッセージが。
↓これを読んでなかったら、スペイン内戦の歴史を知らず理解できなかったと思う。
「町山智浩『パラレル・マザーズ』を語る」
https://miyearnzzlabo.com/archives/91565
遺骨現場での最後のシーン。今までのすべてのニッチモサッチモな人々が集合するのですが、取りまとめ役のペネロペ・クルスが大地のようなたくましいお母さんっぷり。
難解たけど、ひとりの女性が持つさまざまな面が描かれていて面白かった。周囲の人との関係性によりもともと持った民族性とかその人の個性でこんなに人は豊かになるんだな、と。
よく、女優は40歳超えたら役が極端に少なくなる、と言われるけど、そんなこと全然ないと思える素敵な映画。