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01_きょうは二本 -わくわく温泉かっぱの湯(亀川)-

 疲れを癒すため、湯屋に行くことにした。
 時間はとうに22時近く。夜遅くまでやっている温泉は限られる。あまり遠出したくなかったから、一番近いところに行くと決めた。
 
 自転車を走らせて数分、「ゆ」のネオンが徐々に大きく見えてくる。ひらがなでいちばんすきなもじは「ゆ」かもしれない。日本全国どこにいても、この一文字を見ると安心する。

 
 わくわく温泉かっぱの湯。塩化物泉。いつ来ても多くの地元の人や観光客でにぎわうスーパー銭湯。この日は木曜だったため、毎週恒例のメガネ祭りで440円のところ350円だった。他にも毎週水曜日はレディースDAY、毎週金曜日はメンズDAYとサービス満載なのが面白い。
 
 のれんをくぐり、服を脱いで扉を開ける。湯気がのぼる広々とした空間は、開放感を与えてくれる。共同温泉ももちろん好きだが、何といってもスーパー銭湯の良さはお風呂の種類の数と浴槽の大きさだろう。ジャグジーなんかもたまらない。大きな浴槽で身体を伸ばし、ゆったりくつろぐ時間こそ、身も心も自由になり、じんわりとほぐれてくる。頭の中では『千と千尋の神隠し』の大浴場で神さまたちが疲れを癒す映像が上映される。ふぁーと言葉にならない力の抜けた声が出るのも当然だろう。
 
 ひとしきり内風呂を楽しむと、階段を上り露天風呂へ向かった。かっぱの露天はこじんまりとした岩風呂がひとつのみ。あまり大人数は入れないため、タイミングを見るのが得策。
 
 内風呂にいると他の方々の声や洗面器の音が反響して程よい雑音が生まれるが、露天にいるとずっと静かになる。
 
 思い返せば、かっぱの湯は記念すべき1湯目の入湯記念印を押した温泉だった。平成30年7月。今は令和2年9月。2年の歳月が過ぎていた。そろそろ、巡りはじめないとな。少し肌寒い時期に入る温泉、秋の楽しみがまた一つふえた。
 
 
 存分に大風呂を堪能し、浴場をあとにした。裸足のままペタペタとフローリングの床を進む。エントランスの奥の方には小さな食堂「かっぱ食堂」があるが、すでに時間外。となると、風呂上がりにやることはただひとつ。
 
 自販機の前で迷うことなく、コーヒー牛乳を選んだ。まだまだ風呂上がりの一杯はビールよりコーヒー牛乳派。あっという間に飲み干したが、正直どこか物足りない。よし、もう大人だ。ここはちょっぴりぜいたくをしよう。再び、自販機とにらめっこした。
 
 2本目はフルーツ牛乳を選んだ。ずっと牛乳かコーヒー牛乳を選んでばかりだったから、実ははじめて。フタを開けてごくっとひと飲み。甘さの中にほのかに酸味を感じる懐かしい味だった。
 
 フルーツ牛乳といえば、高校の自販機で買って飲んだのがはじめてだった。中学までは校内に自販機なんてなかったから、放課後に買うのがちょっぴり楽しみだった。紙パックのジュースは安っぽいけど、とびきりの青春が詰まっている。自販機は2〜3種類あって、ミルクココア、ナタデココ入りのジュース、いちごオレ、炭酸以外のバリエーションは豊富だった。何種類か飲みあさった記憶はあるけど、結局最後はフルーツ牛乳に行きついていた。
 
 腰に手をあて、立ち止まったまま一気に飲み干す。時間も遅かったため、誰にも見られていない。
 

 日々の生活にひそむ小さな幸福。今日はぐっすり眠れそう。
 
 帰り道、自転車を漕いでいると、九月の夜風がくすっと頬をなでた。


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