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短いもの

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#書きたい物を書くのよ

孤燈一穂

月をばらばらにした破片が

突きささる月刺さり

尽き笹る

小暗い森林には孤燈一穂の破片が

苔むした岩に差し込まれて

橙黒く

傍らでねむるこぎつね

小さな灯りは穂波のように末広がり

葉末を揺らしてしまう

小さな灯りはどこまでも内に向かって

灯りは明かりに逆らうように

どこまでも小暗く光るのである

傍らでねむるこぎつねは

うずくまり小刻みに震えて

黒く落とした陰影の中で

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いき

おだやかな古戦場のような野原で

おだやかでないため息をつく

つかれた息は蒸気になって

ごうと鳴る汽車の後についていく

汽車の中には人だかり

ぐうすか鼾をかくひと

わらうひと

窓にうつる風景をながめるひと

かなしんでいるひと

吐息はもう疲れてしまって

ふわりときえた

窓にすこしの

曇りあとをのこして

クソほどもない

こじ開け

開け広げ

這いつくばって

歌謡いに小石を投げる

ええいままよ

風呂敷の中にゃあなにごとも

食べ物なんて

クソほどもありゃあしねえ

頬を打ち

べそをかいて

のたうち回り

ブレイクダンスをしよる

ええいママよ

家の中にゃあなあんにも

愛する者なんて

クソほどもいりゃあしねえ