🎮GodEater誕生秘話

#ゲームの作り方に参加しようと思い書くことにしました。
バンダイナムコ在籍時、プロデューサーとしてゴッドイーターの立ち上げをしたのでその時の話を書きます。
もう11年前なんですね。
時間が経つのが早いです。
ちなみに私はこのゲームが発売される2年前からの付き合いなので、そう考えると13年も前になるので、我が子が2歳の時と考えるとやはりだいぶ昔な気がしますね。

プレイステーション・ポータブル

なにせプラットフォームもPSPですしね。
ちなみに一昨日、電車の中で20代半ばくらいのサラリーマンがPSPで一生懸命ゲームをしていました。
なんのゲームかまではわかりませんでしたが、まだ現役で動いてるPSPがいるのにホッコリしました。

▼キッカケ

さてさてゴッドイーターのキッカケはモンハンをまだ知る人ぞ知るPS2でモデムつけてカプコンが提供するOnlineサービスに登録して、遊ぶ初代から好きで毎作500〜700時間プレイしていて、モンハン2Gで「共闘」を謳っているものの共闘というよりそれぞれがバラバラに作業している感が強かったので、本当に共闘してるようなみんなでもちよってワイワイできるゲームが作れたらもっと良いのにと思っていたことと、せっかく3Dゲームなのに立体的な戦いは表現していなかったので、ドラゴンボールのように太陽拳で目眩ましをして、気円斬で注意をひいて、悟空がかめはめ波で決めるみたいな共闘を立体的な空間でできるゲームを作ったら面白いものが作れそうと思っていました。

Nintendo DS

そんなタイミングで開発部署からプロデューサーである私のところへ、小学生をターゲットにしたNintendo DSでプレイする競争をテーマにしたゲーム企画の相談をされたところからスタートしています。
なので、ゴッドイーターの最初はターゲットユーザーもゲーム性もまったく違う企画からスタートしています。
ただ、プロデューサーである私の中で作ったら売れるだろうと思っているコンセプトは最初からブレていませんでした。
相談された企画の中で興味を引いたのが、ローディングなしにフィールド移動ができる点でした。
当時のモンハン2Gではエリアチェンジの度にローディングが発生していて、ちょっとプレイフィールを残っている面もあったので、技術的な点からのアプローチでも差別化のポイントになり、新しいゲーム体験を提供できるのではないかとピンと来たのでした。

そしてもう1つ小学生向けというのも、ちょうど良かったのです。
モンハンのようなゲームジャンルに新たに勝負を挑むタイトルは各社から発売されていましたが、ことごとく鳴かず飛ばずという結果だったのでターゲットを中高生ではなくその下を狙おうという腹づもりでいました。
同じ土俵で大横綱と勝負するのは博打が過ぎるので。

▼追い風

そんな私に追い風が2つありました。
1つは小学館のコロコロ編集部が興味を持ってくれたことです。
当時、モンハンの漫画をコロコロで連載していたのですが、ゲームのレーティグとしてはCERO Cで15歳以上推奨でそのコミカライズ作品は人気があるものの、大々的にプロモーションできないというジレンマと、IP創出力としてのゲームの力に興味を持たれていて、一緒に製品作りやメディアミックスをしていこうという話になりました。
もちろん小学館さんは、ポケモンとも強力なタッグを組んで成功体験を持っているというのもあったと思います。

プロデューサーの私としては、世の中の人へ知ってもらえる露出が増えることや、最初からメディアミックスができることは利点が大きかったので、双方乗り気で話をしていきました。
またそんな時にフジテレビの日曜日9時からのアニメ放送枠にかける作品候補によいものがなく、ちょうどバンダイナムコグループとしても新規作品のゲーム化とアニメ化を同時に走らせるような試みを当時の経営陣が映像事業にも深く関わってきた方で、考えており私たちの企画でそれをやってみたらどうかと声をかけてくれたのでした。

そんな形で当初は小学校3年生以上の子どもたちをメインターゲットとしたポストモンハンとなるようなゲームを出そうということで進めていました。
会社の会議体に諮るところまできたのですが、当然の如くモンハンライクなゲームという時点で失敗事例しか業界内にないのでアレルギー反応的に反対意見だらけだったのですが、私たちは先に書いたようなコンセプトを持ったゲームは当時のモンハンも実現できていなかったですし、他社からも発売されていなかったのでイケる自信があったので、当時全社的にマーケティングを積極的に取り入れていたので商品企画としては自信があったので、定量調査と定性調査を実施し、そこでもスコアが悪かったら諦めるので調査費用の350万円だけでも通して欲しいと訴え、了承を取り付けました。
きっとこの時の会議に出ていた多くの人たちは懐疑的で、散々な結果で消えてなくなると思っていた人も少なくなかったのではないかと思います。
間違いなく自分も逆の立場だったら、そう思っていたと思いますw

▼マーケティング・リサーチ

定量調査は1000人規模で行いました。
また定性調査はグループインタビューで小学5年生〜高校1年生まででモンハンプレイ経験者で、プレイの程度はガッツリやってる人からクリアするまで程度と幅広く6グループ、30名程の方に来てもらいました。
じっさいのインタビューは専門家に依頼し、私たちはマジックミラー越しに別室からその様子をメモを取りながら観ていました。

ここへ来るまでの間にハードは企画内容の実現を考えるとスペック的にPSPでないと厳しいということで、変更していました。
また、ローディングなしで広範囲なマップを読み込むことができるデモ版は完成していたので技術面での実現性の1つは担保されていました。

定性調査初日に私たちは自分たちがゲームユーザーのことを分かっているようでまったく分かっていなかったことに気付かされるのでした^^;
最初から衝撃的でした。
小学4年〜6年生のグループが1グループ目だったのですが、私たちが小学生高学年向けに作ったキャラクターデザインや世界観、ゲームタイトルなどのビジュアルイメージの数々の案のすべてに対してこれは小学校1年生ぐらいの子どもたち向けであるという回答だったのです。
そうです、私たちがイメージしている子どもたちに刺さるもののイメージがだいぶズレていたのです。
こんな子供っぽいものは自分たちはやらないと。
では、どんなゲームをプレイしているのかと思ったらGTAとか、想像もしていなかったゲームだったのです。
自分の子供時代を少し振り返ると確かにと後に思ったのですが、背伸びをして中学生や高校生のお兄ちんお姉さんへの憧れがある時期なので、ドンピシャなものには食いつかない子が多い年頃なんですね。

ポケットモンスター サン

ペルソナ3ポータブル

そして、私たちが小学生だった時と社会環境も異なるので、手に入るもの触れているもの、情報量も桁違いに多いので、すでに洋ゲーとかいう概念も溶け始めていたことを知りました。
もちろんRPGと言えば「ドラクエ」「FF」ではなく、「ポケモン」「ペルソナ」みたいな形で変わっていました。
そして私たちはコロコロさんと組み小学校高学年をメインターゲットに据えていたのでCEROレーティングを守るために出血表現の色を赤ではない色にしていました。
また、リアル系のエフェクトではない方向性にしていたのですが、それについても否定的な意見が続出しました。
「子供っぽい」
「リアルじゃないからよくない」
「これは血ですよね？どうして赤じゃないんですか？」
と小学生の被験者から次々と指摘を受けました。

さらにモンハンをかなりやり込んでいて、年間にゲームソフトを10本以上買うような子どもたちのゲームソフトを買うまでの購買行動でも驚くべきことがたくさんありました。
まずゲーム雑誌を読んでいなかったのです。
そしてインターネットにあるゲームメディアも見ていないですし、メーカーの公式ページなどもほとんど見ていないことがわかりました。
明らかにゲーム好きの子ですら、積極的にはゲームを探しに行き調べるという行動をとっていないので、どうやって買おうと思うゲームに出会っているのかという疑問が湧いたのでモデレーターに聞いてもらったところ、クラスに詳しい子がいて、そういう子から教えてもらったり、前からプレイしていたシリーズものタイトルを購入しているだけであることがわかりました。

しかも、詳しい子から紹介してもらい、遊ばせてもらって面白いと思ってもまだ購買行動は取らず、更に借りて数日プレイして、ここで初めてちょっとAmazonのレビューや2chを検索して評判を調べたりするというのです。
わたしたちが思っているゲーム好きの子供のイメージはガラガラと崩れ去っていきましたw

救いだったのはコンセプトである本当の共闘プレイ、3D空間を使ったバトル、ストレスなくエリアチェンジすることで新たな緊張感を生む技術については好感触でした。

▼定性調査から分かったこと

①小学校高学年にもなると中高生がプレイするゲームと変わらないものを遊んでいるし、遊びたいと思っていた。
ビジュアルイメージもゲーム性も、世界観も私たちが考える小学生向けでは自分たちのものではない、小学校低学年の子向けということが分かった。
ゲーム内の表現もリアリティーを求めており、レーティング通りでは私たちが狙っているユーザー層には刺さらないことが分かった。

②ゲーム好き、ゲーマと一口で言ってもごくごく一部の自らゲーム情報を追いかけ、収集し、購入していくイノベーター気質の子たち以外は、受動的にしか新しいゲームに出会っていない可能性が高いことがわかった。

③クラスに1人ぐらいいるエヴァンジェリスト的なゲーム好きの子がハブになっていることが分かった。

④ゲーム好きの子どもたちでも新しいゲームよりも、慣れ親しんだシリーズものタイトルしか買っていない。

⑤知って、興味を持ち、購入するまでの導線が長いことがわかり、慎重に購入を検討していることが分かった。

ということから、悩んだ末、私がプロデューサーとして下した決断は、小学生向けでは小学生にも売れないことがわかったので、コロコロ編集部には筋を通して取り組みを一緒にできないことを伝え納得して頂きました。
そしてビジュアルイメージに関係するすべての要素を見直すことにしました。
そしてメインターゲットも変更しました。
調査の結果、私たちが仮説としてもったのは中学生2年生までに刺しておかないと、その後も買い続けてくれるシリーズものタイトルにもなれないというデッドラインであるということでした。
そこで長期的にモンハンの層を崩していくためには、中学校2年生のエヴァンジェリストに刺さるものを用意し、エヴァンジェリストが拡散しやすいツールを用意することにしました。
当時ではまだ珍しかったPSPでしたが体験版を配布することは、まだプリプロも開発してないこのタイミングで決めたことの1つでした。
みなさんが手にして遊ぶゴッドイーターがそもそも存在しなかったかもしれなかったですし、今回のように最初とみなさんが手に取る製品がだいぶ異なっているということも結構あります。

きっとそれぞれのゲームソフトには独自のストーリーがあるに違いありません。
今回はゴッドイーターのことを書きましたが、私がプロデューサーやディレクターと関わってきたそれぞれのタイトルに独自の物語があります。
機会があれば書きたいと思います😀

▼その結果

そして変更した内容で中学2年生のグループへの定性調査と定量調査も実施した結果、トップボックスで25という驚異的なスコアを叩き出すことができました。
これは発売されたら買うと答えた人たちが25%もいたということです。
一般的には20%を超えれば、成功確度は高いので製品化は太鼓判でいくというレベルですから、驚くべきものでした。
これらの結果を携えて社内の審査会に挑み、見事開発承認を受けることができたわけです。

アニメ化の話は生きていましたが、諸般の事情でだいぶ遅れての実現となりましたが、オリジナルゲームIPの創出と言える売上(61万本)を1作目から上げることができました。
シリーズ累計では450万本を超えています。
おそらくポストモンハン的なタイトルでここまで売り上げたものは他にはないと思います。
ただ、私はプリプロの終わりまでしかバンダイナムコゲームスに在籍しなかったので、発売時には現在のシリーズプロデューサーが持っていってくれたのですが、このゴッドイーターの立ち上げ時に得たものはとても大きかったです。

このように私はゲームソフトのような機能性商品ではない、エモーショナルな製品であっても、マーケティングが有用であることと、クリエイターの発想と科学的な調査と分析の両輪で成果を出せることを身を以て体験することができたので、その後も両立したアプローチで製品開発をしています。

ということで私のゲームの作り方でした。
最後まで読んで頂きましてありがとうございました。

#ゲームの作り方