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関係者を巻き込むために『問題をちゃんと言葉にする』~ストーリーで学ぶ、ビジネスに役立つ問題解決プロセス①~

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティング(GSC)の但田(たじた)です。今回からは、私たちがコンサルティングの場面で行っている会話のリアルイメージをお伝えし、「問題解決に向けたアプローチ」の実際をご紹介していきます。


イントロダクション:誰にでも身近な「問題解決」と、解決を難しくする「関係者の巻き込み」

「問題解決」は誰でもやっている身近なこと

「問題解決」というと大げさですが、ビジネスでもプライベートでも、いま直面している「困っていること」を見付けて、対策を考えて、実行する、ということは、誰でも日々やっていることでしょう。

たとえば、「自分の部屋の窓が大きいので、冬場は寒いな(=問題)」と思ったら、「防寒フィルムを買ってきて貼り付けたりする(=解決策)」、そういう日々の工夫も「問題解決」のひとつです。私たちはそうやって、日々のなかで「問題」を見付けたら、対策を考えて、実行しています。

「問題解決」の前に立ちはだかる、関係者との合意形成

ですが、問題解決が難しくなる大きなポイントがあります。そのポイントとは「1人でできることか?それとも、他の人を巻き込まなければできないことか?」という違いです。

先ほどの、窓の例で考えてみましょう。「自分の部屋」の窓で、自分のお財布からお金を出せるなら、自分の判断でフィルムを貼ることができます。

ですが、これが家族も使う居間だとすると、家族の合意が必要になります。自分は「寒いからフィルムを貼りたい」と思っても、他の人が「窓からの眺めが好きだからフィルムを貼るのは嫌だ」と言うかもしれません。あるいは、フィルムを貼ること自体に異論はなくても、「わざわざフィルム代に数千円をかけるほどではない」と、お金を使うことに反対されるかもしれません。

私たちを悩ませる、手ごわい問題の大半は、このように「1人では変えられない問題」です。そのために、問題解決のためには「関係者をどうやって巻き込むか?」という合意形成のためのアプローチがとても大切です。いくら自分の頭のなかで素晴らしい解決策を思い付いたとしても、周りの人を巻き込めなければ、実行に移すことができないからです。

そこで今回のnoteでは、関係者を巻き込みながら問題を解決していくアプローチを、私たちゴール・システム・コンサルティング(GSC)のコンサルタントがどのように進めているのかを、ストーリー仕立てでお伝えしていきます。会話形式ですので、ぜひ気軽に読み進めてみてください!

ストーリーで学ぶ問題解決プロセス①関係者を巻き込むために『問題をちゃんと言葉にする』

ということで、ここからは対話仕立てでお伝えしていきます。なお、このストーリーは、GSCの渡辺薫が作成しています。

ストーリーの登場人物とあらすじ

■登場人物(仮名)
✔ ワタナベ(以下、ワタナ)…BtoB(法人向け)製造業の営業本部長。営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入したい。
✔ タジタ(以下、タジ)…ワタナと同じ会社の経営企画室に所属し、様々な改革活動でファシリテーションを手伝っている。
■あらすじ
ワタナは営業力強化のために、営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入しようと考えています。が、なかなか根回しがうまくいかず、一人で考えていても展望が開けません。そこで、社内の改革活動で活躍していて、趣味のサークルの仲間でもあるタジに相談することにしました。
■ストーリーのポイント
今回のお話は「DX」を題材にしています。DXとは「デジタル技術を活用してビジネスを改革すること」です。ビジネスを改革することが目的で、デジタル技術はそのための手段です。ですが、改革を検討するなかで、いつのまにかデジタル技術を導入することがゴールになってしまう「手段の目的化」が起きてしまうことがあります。問題解決アプローチを使うことで、手段の目的化に陥らずに、関係者の合意が得られる変革の道筋を描くことができます。

ストーリー作成 GSC 渡辺薫

1.営業本部長の悩みごと:ソリューションを導入したいのに根回しがうまくいかない!

ワタナ:実はタジに相談に乗って欲しいことがあるんだ。

タジ:私でお役にたつことでしたら。どんな相談ですか?
 
ワタナ:営業力強化のために、営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入しようと思っているんだけど、なかなか根回しがうまくいかなくてね。
 
タジ: 皆さんどんな反応なんですか?
 
ワタナ:丁寧に説明しているつもりなんだけど「よくわからない」とか、「何でそんなことするのか」とか「そんなの必要ありません」っていうような反応ばっかりなんだ。

2.営業本部長にとっての「問題」は何か?

タジ :わかりました。では、対応策を一緒に考えるために、もう少し詳しく状況を教えてください。「デジタルソリューションを導入したい」ということは、何らかの問題を意識されているということですよね。ソリューションの導入で、どんな問題を解決したいとお考えなのですか?
 
ワタナ:営業力が弱いから営業力を強化したい…営業パイプラインのソリューションを導入する、っていうのは、そういうことだ。
 
タジ: 意識されている問題というのは「営業力が弱い」っていうことですね。では、なぜ「営業力が弱い」と判断されたのでしょうか?具体的にいうと「営業力が強い」のか、それとも「営業力が弱い」のかは、どうやって判断されているのでしょうか?
 
ワタナ:ん-、それは、あれだ、営業というのは結果だ。結果、つまり売上で判断しているんだ。
 
タジ :念のため確認させてください。「営業力」そのものは評価が難しいんですね。そして、渡辺さんが意識されている問題は、営業力の結果である「売上」。それで良いですか?
 
ワタナ:まあ、そうことになるな。ソリューションの方にばかり目が行っていたが、私が気にしているのは、というか、大事なのは、売上だ。
 
タジ :もう少し詳しく、売上の何が問題だとお考えなのか?具体的に教えていただけませんか。
 
ワタナ:このままだと、売上の予算というか、中期経営計画が達成できない…というか、このまま何もしないと大幅な未達になりかねない。だから急いでソリューションを導入したいんだ。
 
タジ :売上の予算もしくは中期経営計画が未達になりそうだ、ということですね。では、どういう目標に対して、どの程度の未達になりそうなのか…ざっくりとで良いので、定量的に、数字を含めて教えていただくことはできませんか?
 
ワタナ:えー、そんなことまで、言わないといけないの?
 
タジ :大切なことなのでぜひお願いします。「測定できないものは改善できない」っていうじゃないですか。定量的な情報がないと、ソリューションを導入しても、効果があったか測れないですよ。そうなると、どんなに説明したって説得力がありませんよね。
 
ワタナ:まあ、そのとおりだ。では、ここから先は、他言無用でお願いね。
 
タジ: もちろんです。お約束は守ります。
 
ワタナ:タジは経営企画室に所属しているから、知っていると思うんだけど、僕の営業本部では、今年度は10%売り上げを増やすことを目標にしている。でも、このままだと5%くらいの伸びにとどまりそうなんだ。なんか首の後ろに冷たいものを感じ始めていね……
 
タジ :また、おおげさですね。でも、これで取り組むべき問題を、クリアに理解することができました。復唱しますね。ソリューション導入によって解決したい問題というのは、「10%の売上増加という目標に対して、現在の実績、状況だと5%の売上増にとどまりそうだ」ということで、よろしいですね。
 
ワタナ:まあ、そのとおりだ。でも、この数値目標を明確にしたところで、ソリューション導入のシナリオとどう結びつくのか…いまいち、ピンとこないんだが…。
 
タジ :話はまだ始まったばかりです。私に相談したら長くなるのはわかっていたでしょうから、もう少しお付き合いください。でも、営業の問題といっても、売上が減少しているのか?それとも期待ほど伸びないのか?って、ぜんぜん違いますよね。こういうことを丁寧に確認していくことが大事なんです。
 
ワタナ:…よくわかりました。では腰を据えてやりましょう。問題は、売上が計画通りに伸びてないってことだね…さあ、次の質問は?
 
タジ :今回取り組む問題は、売上が期待というか計画ほど伸びないということでした。売上を伸ばすということは、恐らく新規のお客様の獲得も積極的に進めていこうとお考えだと思うのですが、それで良いですか?
 
ワタナ:もちろん、そういう計画だ。既存のお客様との取引拡大だけだと、10%なんていう高い伸び率はなかなか難しいからね。でも、もちろん既存のお客様相手の売り上げ拡大もめざしてて、新規と既存の合わせ技で10%伸ばす、という計画になっている。
 
タジ: なるほど、合わせ技なんですね。では、次の質問です、既存のお客様の売上拡大と、新規のお客様の売上獲得を比較すると、どっちかは、うまくいってて、どっちかがダメ、みたいなことはありますか?
 
ワタナ:ああ、既存のお客様の売上拡大は、ほぼ予定通り進んでいるようだ。問題なのは新規顧客向けのビジネス拡大だ、こっちが、もうどうしようもない。
 
タジ:だんだんクリアになってきました。渡辺さんの意識されている問題というのは、新規顧客向けの営業が伸び悩んでいる、ということなんですね。
 
ワタナ:ああ、確かにその通りだ。でも「伸び悩んでいる」なんてものじゃない、全然進んでいないというのが正直なところだ。

タジ: なるほど。新規顧客向けの営業が伸び悩んでいるということですが、新規のお客様の数が増えないんでしょうか、それとも新規のお客様だと1件の客様当たりの契約金額が小さいということなんでしょうか? もしかして両方とか?
 
ワタナ:うちの会社の製品の性格として、新規のお客様が獲得出来たら、そこそこの大きさの契約になるんだ。だから問題は、新規のお客様の数。これが増えない、全然期待通りに増えない、ということが問題なんだ。
 
タジ :ありがとうございます。これで渡辺さんの問題意識がクリアになりましたね。売上予算という目標・ゴールを達成する上での問題は「新規のお客様の数が増えない」ということ。そして、渡辺さんは、この問題を解決するために営業パイプライン管理のソリューションを導入しようとしておられる、ということですね。
 
渡辺:そう、その通りだ。ありがとう、だいぶ頭の中が整理できてきた。ちょっと今までの僕の説明がはしょりすぎというか、短絡的というか、まあソリューションありき、の説明になってしまっていたようだな。これで社内の根回しのストーリーを組み立てなおすことができそうだ。ありがとう。

3.次の相談までの宿題

タジ: どういたしまして。……でも、まだ、おわりじゃありません。
 
ワタナ:えー、まだ続くの?
 
タジ:私たちが使っている問題解決プロセスの本当のパワーが実感できるのは、ここからです。でもここから先は、どんどんリアリティの深いところに入っていくので、少し時間をおいて、渡辺さんに準備を進めていただいてからの議論にしたいと思います。
 
ワタナ:わかりました。で、どんな準備をしたら良いですか?
 
タジ:渡辺さんには、2つのことを考えてきてもらいたいと思います。場合によっては現場へのヒアリングとか、営業マネージャーとのディスカッションをするのも有効かもしれません。

渡辺さんにとっての問題は「新規のお客様の数が増えない」ということでした。では1つ目、「新規のお客様の数を増やす」上での制約はなんでしょうか?「新規のお客様の数を増やす」というパフォーマンスの上限を決めている制約は何でしょうか?
そして2つ目、その制約を、私たちは上手に活用できているでしょうか?反対側からいうと、制約を無駄遣いしていませんか?ということです。

■次回までの宿題
1. 「新規のお客様を増やす」というパフォーマンスの上限を決めている制約は何か?
2. その制約を十分活用できているか、もしくは無駄遣いしていないか?

ワタナ:メモしておいたよ。ただ、ここでタジが使ってる「制約」っていう言葉の意味を、もう少し詳しく説明してくれないかな。

タジ:はい「制約」というのは、パフォーマンスの上限を制限しているもののことです。制約は実体があるもので、例えば、製造現場の場合だと、製造設備の能力とか。プロジェクトの場合だと、エンジニアの時間とかが制約になる場合が多いです。
 
ワタナ:まあ、感覚はつかめたような気がする。で、この宿題だと、あちこちヒアリングとかもしたいので、再来週に次の打合せをしよう。今日はありがとう。

今回のまとめ

今回は「問題をちゃんと言語化する」とはどういうことかをイメージしていただくために、DXを題材にしたストーリー形式でお届けしました。DXに関わらず、課題解決のソリューションを検討する場面では、今回のストーリーのように解決策の提案から話を始めがちです。

けれども、いきなり解決策だけを熱弁しても、周りの人々と合意形成をし、巻き込んでいくのは難しいです。そこで、今回ご紹介している問題解決プロセスでは、まずは「問題の存在に合意してもらう」ことを重視しています。そのための最初のステップが、「問題を明瞭に言語化すること」だというのが今回のポイントです。

今回のお話では、渡辺本部長が抱えている問題が、会話を通じて明確になっていることがわかります。

■渡辺本部長が抱えている「問題」の明確化
  営業力が弱い
→ 売上に問題がある
→ 売上の予算もしくは中期経営計画が未達になりそうだ
→ 10%の売上増加という目標に対して、現在の実績だと5%の売上増にとどまりそうだ
→ 新規顧客向けの営業が伸び悩んでいる
→ 新規のお客様の数が増えない

このように書き出してみると、「どこかで見たことがあるな?」とお感じになる方もいらっしゃることでしょう。たとえば、「売上」を客数や客単価に因数分解して、問題の解像度をあげていくアプローチは、今回に限らず、問題解決のための一般的な考え方です。

このような考え方を「勉強」だけでなく、実際に使いこなして合意形成につなげるためには、今回のストーリーのように、会話のなかで丁寧に相手の話を聴くアプローチが大切です。まるで、カメラのレンズの焦点を絞っていくように、問題の解像度をあげていくことで、関係者にも「問題が存在する事」に合意してもらい、その後の問題解決に向けた一歩を踏み出すことができます。

今回のストーリーの背後にある考え方

さて、今回ご紹介している問題解決プロセスは、TOC(制約理論)という考え方を用いています。TOCでは、組織のパフォーマンスの上限を決めている「制約」を見付けて、その制約を徹底活用することを基本原理としています。「制約」というよりも、ボトルネック、という言葉の方がなじみがある方もいらっしゃるかと思います。

▼「制約」について詳しくは、こちらの記事をご覧ください

TOCは、小説『ザ・ゴール』というビジネス小説から始まっており、「制約」に着目して、企業活動の流れ(フロー)を良くしていく手法として知られていますが、フローの改善の他にも様々な知識体系に展開されています。

そのなかでもよく使われるのが、問題解決の考え方である「TOC思考プロセス」です。TOC思考プロセスをざっくり説明すると、組織で繰り返し起こっている「慢性的な問題」を解決するために、5つのロジックツリーをプロセスに沿って組み立てて行いくことで、「何を・何に・どうやって変えるか?」を明らかにする、論理的な手法のセットです。

▼TOC思考プロセスについて更に知りたい方は、こちらをご覧ください

この「TOC思考プロセス」で最初に行う、とても重要なプロセスが、今回とりあげた「問題をちゃんと言葉にする」ということです。TOC思考プロセスでは、一般的な広義の「問題」と、今回のように、解像度をあげて明瞭にした問題を区別して、「UDE( Undesirable Effect,ウーディーと読む)」という用語を使っています。

UDEについては、実は細かく表現のコツがあったりもしますが、まずは「思い込みや感覚的なものではなくて、現実に起きている悪いことを、事実実体として表現したもの」だというポイントをご理解ください。

▼UDEについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

また、UDE(問題)をきちんと言葉にする上でとても役に立つのが、CLRと呼ばれる、ロジックチェックの観点です。この観点は全部で7つありますが、一番よく使う、まず押さえておきたいのが「明瞭性のCLR」です。

▼明瞭性のCLRについて詳しく知りたい方はこちらをご覧ください

今回のストーリーでは、TOC的に言うとUDEを明らかにするというプロセスを再現していました。「UDEを明らかにする」ということは、TOCに限らず、問題解決の上でとても大切な第一歩です。なぜなら、「問題があること」に合意してもらえなければ、解決に向けた取り組みがスタートできないからです。

「問題をちゃんと言葉にする」工夫自体は、TOCを知らなくてもできますし、合意形成のためにとても大切なことなので、ぜひ、皆さんでもやってみてくださいね!

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