モバイルオーダーが普及した今、求められるものとは?【オーダー事業推進部長インタビュー】
―(吉川)このインタビューは2023年に公開した記事の続編となります。「ぐるなびFineOrder」やモバイルオーダー市場において、この1年ほどの間にどんな変化がありましたか?
(行武)
一番大きな変化は、チェーン企業様向けに契約企業数や稼働店舗数が非常に増えてきていることです。それと最近では、ホテルや社員食堂、物販店の企業様からのお問い合わせや導入も増加しています。今までは、モバイルオーダーを飲食店に限ったマーケットでの戦略作りを行ってきましたが、それ以外の新しい業態での市場ニーズの高まりに応えるべく、新しい戦略を作りつつあるところです。
―(吉川)導入企業が増えた実感や、飲食店以外の領域が拡大している背景は?
(行武)
やはり人手不足とインバウンドの拡大だと考えます。賃金の上昇や外国人のスタッフも増える中、接客品質を下げずに店舗の業務効率を上げるために導入を検討されるケースが増えています。また、社員食堂の場合は、従業員の流動化や就業スタイルの変化がモバイルオーダーの導入を検討する要因となっており、大きなターニングポイントになったのだと考えています。
―(吉川)需要が高まっているなか、「ぐるなびFineOrder」ならではの強みは?
(行武)
やはり、取り扱いの良さでしょうか。加えて、今年7月にリリースした「Premium UI/UXプラン」では、ウェルカムページや商品一覧で動画設定を可能にするなど、アピールポイントを表現しやすいよう強化することができます。お店としてのコンセプトの提示、お客様の利用率を上げやすいといった点で他社様から切り替えたいというお話もいただいています。
―(吉川)モバイルオーダーが浸透してきた今、導入企業やエンドユーザーからはどのような声が寄せられているのでしょうか。
(行武)
導入していただいた企業様においては、省人化や省力化という点で非常に効果が出ているというお話をいただいています。「利用率が上がるにしたがって、客単価が確実に上がり、『ぐるなびFineOrder』を導入してからは注文時間が1分で済むようになった。1組あたり4分の短縮ができることで、ランチタイムやディナータイムのピーク時に接客生産性が上がり、席の回転率が良くなった」とのご意見も頂いています。
また、販売促進面ではLINEとの連携によるリピート販促による効果も上がってきています。
「ぐるなびFineOrder」利用時の情報をLINE IDに紐づけられますので、「このワインを飲んだお客様にリピートのクーポンを送る」など、お客様のご利用状況に応じてセグメントができるんです。ターゲティングがきちんと決められるのが大きな特徴ですね。
さらに楽天グループとの提携により、ネット予約やモバイルオーダー注文時に「楽天ポイント」を付与することも可能になりました。お店に行ってモバイルオーダーで注文するだけでポイントが貯まるという効果を感じていただければ、自然とお店へ足が向く。お店は楽天経済圏からお客様を誘導できるのも大きなポイントです。
―(吉川)市場に浸透してきている一方で、高齢のお客様などモバイルオーダーを得意としていない層も。ぐるなびならではの対応や展望は?
(行武)
やり方は大きく挙げて2つあると思っています。例えば、あるワンオーダーの店舗の場合、導入初日は38%の利用率でしたが、1~2週間後の平均利用率を80%まで上げることができました。客層とエリアとしては60代以上の方が半数いらっしゃる住宅街になります。このような、利用率を上げることが難しそうなお店に向けて、ぐるなびのカスタマーサクセス部隊が密着して伴走するサポート体制があります。現地を訪れ、丁寧に寄り添いながら、どうしたら利用率が上がるのかときめ細かくアドバイスしていく伴走サポートの方法です。
もう一つはテスト的にスタートしているのですが、モバイルオーダーのタブレット版を簡易的に準備させていただき、スマホを使っての注文を躊躇われるお客様に、その端末を使って注文していただくという運用のご案内です。
このようにぐるなびでは、モバイルオーダーの市場認知が高まる中、いろいろな客層の利用者の方が、いかに簡単にモバイルオーダーを利用できるか、結果として利用者の方や店舗のスタッフの方に満足いただけるか、ということを常に導入店舗の皆様と研究をしています。
―(吉川)企業側やお店が持っている自社アプリや自社ツールと絡めた連携という要望などもあるかと思いますが、現時点で何か構想はありますか?
(行武)
自社アプリを持ってはいるが、自社アプリのダウンロード率やアクティブ率を上げることに苦戦されている企業様もいらっしゃいます。例えば、自社アプリとモバイルオーダーと連動することによって、アプリのダウンロードや利用率が上がるのではないかということで、自社アプリとの連携開発ができないかというご相談も頂いています。「ぐるなびFineOrder」は、外部のサービスとのインターフェイスを一部スクラッチで開発もしていますので、一定の接続条件はありますがお受けしています。また、「これを機にぐるなびでアプリも含めてリニューアルしてほしい」というご要望であれば、ご提案させていただいています。
―(吉川)ChatGPTを活用した実証実験も話題になりました。AIとの接続性や取り組みについてはいかがでしょうか。
(行武)
2024年8月、ぐるなびは「ぐるなびNextプロジェクト」として、AIに関する取り組みをリリースし、AIを活用したお店探しのサービス化の検討を進めています。しかしながら「こういうメニューを食べてみたい」と思ったときに、ネット予約側のメニューデータだけではなかなか思ったような検索をすることは難しいこともあります。
そういった悩みもモバイルオーダーに登録されているメニュー情報とAI連動することによって、メニュー情報からも自由にお店の選択をすることが可能になります。
利用するお客様はAIに問いかけるだけで本当に自分が頼みたいものが食べられるお店を選択できますし、飲食店側からするとより自分のお店を選択してもらえる可能性が広がります。
また、AIが来店されたお客様に合ったメニューをご案内できることも昨年の実証実験を通して実現性が高いを考えていますので、モバイルオーダーにAIを使ったサービスの商品化を検討しています。
AIを使って個人を認識し、「いつものメニュー」と言えば簡単に注文できる。誰もがモバイルオーダーを使って簡単に注文できる世界が、すぐそこまできていると考えます。いまはスマホを使っていますが、将来的には、スマホすらいらないという形もできるかもしれませんね。音声認識できるデバイスさえあれば、自由にお店やメニューが選べて注文できる。そういうこともチャレンジしていきたいですね。
―(吉川)今後あるべき飲食DXの姿や、そのための課題は?
(行武)
飲食店は、おもてなし、接客が重要です。特に高級レストランの場合は接客自体に価値があります。DXのシステムを導入したからといって、お店のおもてなしを阻害するとは考えていません。お店のおもてなしを補助するためDXシステムやAIがあると考えています。
私がよく自分の経験談としてお話するのが、若いころに初めてフレンチレストランに行ったときのこと。そのとき出てきた料理に合うワインを頼みたくてもどうしたらいいかわからない、ワインリストを見てもわからないし、ソムリエの方に頼むにしてもハードルが高い。「一緒にいった人に、慣れているんだ」と思ってもらいたいという背伸びをしたい気持ちやお店で恥をかきたくない気持ちがあったんです(笑)。もしそのとき、「この料理に合うワインとは?予算はこのくらいで……」といったことをその場でモバイルオーダーを使ってAIに問いかけ、答えをもらってからソムリエに注文できていたら……。もっと気軽に新しいお店に挑戦できたと思いますし、様々な食事や飲み物をもっと楽しめたと思います。
このように自由にDXというものを使うことができたら、新しい客層を掴み、お客様がお店のおもてなしに満足し、そして固定客化していく……これが、飲食店におけるDX化の展望なのではないでしょうか。
―(吉川)「ぐるなびFineOrder」に関するビジョンについても、ぜひお聞かせください。
(行武)
コロナ禍において“非接触での飲食店利用が可能であること”、それから“なかなか売り上げが伸びないために人件費を下げる”という目的からモバイルオーダーサービスの第一段階がスタートしました。モバイルオーダーという仕組みが社会認知されてきた今、この第二段階においてはチェーン企業だけでなく個人店からもお問い合わせが増えています。ぐるなびの個人店や数店舗のお店をお持ちの加盟店様にアンケートをとったところ、オーダーリングシステムを導入されている店舗が約60%を越えており、モバイルオーダーを利用している店舗が約10%以上ありました。「ぐるなびFineOrder」は、従来より導入いただいているチェーン店様だけでなく、小規模の飲食店様も含めて展開を進めていく予定です。
また、インバウンドのお客様が増加される中で、ホテルの注文サービスや社員の福利厚生としての企業内サービス、物販店など、飲食店以外のお客様へのご導入も増えてきています。このようにスマホを使った注文サービスのプラットフォームをまずは飲食店、そして幅広い業種に展開していきたいと考えています。そして、この注文プラットフォームを使って、決済やポイント、CRMといった新しいサービス展開を進めていきたいと考えています。
ぐるなびは広告会社からはじまりました。このようなスマートフォンのプラットフォームに色々な広告サービスを載せていくのが、ぐるなびらしいモバイルオーダーの在り方なのでは……ということも考えています。
たとえば、広告収入がそのままお店の利益になるようなサービスです。それは営業外かもしれませんがお店の利益を上げ、賃金アップの原資として使えるかもしれません。結果として、飲食業界の給与水準を上げることにもつながるでしょう。若い世代にももっともっと飲食店で働くことを目指してもらえるかもしれない。実際にこういったサービスを実現したいとおっしゃっている広告主の企業様、店舗様もいらっしゃいますので、11月にテスト稼働も予定しています。このような要望に寄り添うサービスを提供していくこともぐるなびの役割と考えています。
最後になりますが、ご提案をする企業様から「いろいろとモバイルオーダーを提供するベンダーがいるけど、ぐるなびさんは何が得意なんですか?」とよく尋ねられます。私は、「お客様に寄り添うこと」とお答えしています。ぐるなびは二十数年ものあいだ、ネット予約を通して飲食店の皆さまに寄り添ってきました。客単価や回転率が上げたいと相談を受けたら、お店をしっかりと見学させていただき、お店のデータ分析したり、運用の改善点をご提案しています。せっかくご導入いただくモバイルオーダーです。店舗の課題に寄り添って解決策をできるだけ見つけ出す。そういったところがぐるなびの強みと考えています。