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1泊約13万円のベッドに震える腕【大学病院ER16日目】

ステロイドパルス開始日から5日経ち、アクテムラとのダブルアタックもあってか、転院16日目のこの日は今までに比べて少し調子が良いように思えた。それは軽快に喋る父の様子から窺い知れた。

ステロイドパルスがこんなに早く効果が見えるものなのか?それはわからない。アクテムラはすでに3回目だったし(つまり3週目)それなりに期間は経過しているわけだしね。

側で見ているこちらとしては、意識が朦朧とし呂律の回らなかった父がスムーズに喋っている様子や私との会話が成り立っている状態を見ると、あぁ少し楽になって来たんだろうなぁと思えるわけで。正直どうしたって素人の患者家族にとっては、どういう治療のおかげで良くなったのかということよりも「悪化した状態を脱出した」という事実の方が重い。

治療の経過についてはきっとスター先生が見て考えてくださっている。まずは悪い状態を脱しつつある父の状態を素直に喜べばいいかな、と思った。

ヘリでの移送っていくらかかるの?

ここ数日、気がかりだったのは入院代の請求だった。11月下旬に救急搬送されて12月中旬にヘリにて転院した父の請求書は、そろそろ地元の総合病院から私の自宅に送られてくることになっていた。

一番不安だったのは移送費用。ヘリでの転院にどのくらいかかるのか?超不安だった。なんとなくヘリ移送に健康保険が適用されるイメージは持てないじゃない?もしかして何十万もの請求が乗っかってくるのでは…そう思うとちょっと怖くなる。

ここに関してはまず健康保険組合に確認を取った。すると【移送費】として申請してもらう必要がありますという返答をもらった。

病気やケガで移動が困難な患者が、必要があって移送されたときに立て替えた交通費などは、次の3つの要件を満たしていると健康保険組合が判断したときには「移送費」(被扶養者の場合は「家族移送費」)として健康保険組合から払い戻されます。
【移送費の支給要件】
・適切な保険診療を受けるためのものであること
・移動を行うことが著しく困難であること
・緊急その他やむを得ないものであること
支給額については、最も経済的な通常の経路および方法によって移送された場合
の費用として健康保険組合が算定した額を全額支給することとしています。
また、移送の際に医師等の付添が必要な場合には、医学的管理が必要であったと医師が判断する場合に限って原則として1人までの付添人の日当などの人件費が支給されます。
【具体例】
・離島で重い病気やケガになり、医療が受けられる最寄りの医療機関に移送されたとき
・医師の指示により、十分な診療を受けるために緊急に転院したとき
引用-日本年金機構健康保険組合

基本的に移送費の申請は「事前に」するらしい。緊急的などの場合は事後に加入している健康保険組合の承認を得ればいいみたいなんだけど、どちらにしても医師の意見書が必要になる。

地元の病院にすぐに確認をした。「状況を確認するので折り返し連絡します」と言われドキドキしながら待っていたんだけど、回答は超絶予想外だった。

「今回、移送費用は無料となります」

ハァァ…神様!ありがたい!
だって、ヘリを飛ばすのにどれだけのコストがかかってると思う?詳しくはよく知らないけど車を動かすのとはワケが違うのだけはわかる。たくさんの医療機器を積み込み、先生同伴の元万全の医療体制を整えた上での移送なのだよ。

救急搬送などと同じく税金で賄っていただいたのだろうか…こりゃ、税金はちゃんと納めなくちゃね。「高い」とか文句言ってる場合ではないのだ。

転院前のE-ICU入院費請求書

スター先生に指定難病の認定についてご相談した際、教えていただいた盲点【ICUのベッドは高額】それは一体どの程度の額なのだろう?高額療養費制度のおかげで一定の自己負担以上は健康保険が負担してくれるとわかってはいても、実際に見るまではやっぱり不安だった。

自宅に届いた2ヶ月分(11月下旬〜12月中旬に転院するまで)の請求書はものすごく分厚い封筒に入っていた。これ、厚さにして2cmくらいはあったんじゃなかろうか。

おそるおそる中を開けてみると、厚さの原因は「診療明細」だった。検査の中身、投薬、手術(輸血やリンパ節生検は手術項目)などがおそらく1日ごとに記載されている。それがふた月分。

そして、最も気がかりだったベッド代は明細の最後の方に「包括評価」と言う項目で掲載されているようだった。

78760×1.4140=111,367(11月/8日間)
75,585×1.4140=106,877(12月/9日間)

どうやらこれがE-ICUのベッド代のよう(その他救命救急体制加算等は除く)
診療明細は点数で表示されている。1点はお金に換算すると10円。

つまり
11月…1,113,670円/12月…1,068,770円
ということになる。

17日間の入院を平均すると1日あたり約12万8千円。つまり1泊約13万円。
パネェ…ハンパない。

請求書を見ると、合計額がひと月250万円弱になっていた(汗)そして着目すべきは「患者自己負担額」が約6〜7万円になっているところ。

結局、11,12月分として支払った入院費用は13万円強で済んだということなのだ。

感謝の気持ちと共に父に請求書を見せる

入院費の振り込みのために、父に請求書を見せながら説明をした。ヘリ移送が無料だったこと、1泊13万円のベッドも健康保険の高額療養費制度のおかげで自己負担額が少なくて済んだことなど要点だけわかりやすく伝えながら。

私が父に一番伝えたかったのは、医療制度への感謝の気持ちだ。

患者の立場だったら「高額な治療費がかかってしまうんだ」と気落ちしてしまうはずだと思った。病気にかかったことを悔やみ、責めてしまうかもしれない。そうではなくて「こんなにしっかりとした治療や集中ケアを受けられ、かつ自己負担を軽減できるシステムがある」という風に父にも感じて欲しかった。

細かい話はもう少し元気になってからしても遅くない。ひとまず転院前の入院費用負担が13万円強で済んだことが伝わり、父がちょっとでも安心できればいいと思った。

案の定、ほっとした表情を見せる父。
同時に「ありがたいな…」と言ってくれた。

後日父が言っていた「何百万円ってかかるのかと思ってたよ」という言葉。普通そうだ。24時間体制での救命医療、輸血や透析などの処置、たくさんの検査や投薬。「高額になるに違いない」と容易に想像がつく。

負担は決して小さくはないけれど、受けられる医療の重みと天秤にかけても、自己負担は随分軽減されている。父がどう感じているのか正確には計り知れないけれど、一緒になって「ありがたい」と感じられる親子なんだ、ということが私はとても幸せだった。

痙攣のような腕の震え

『じゃあ、明日振り込んでくるね』と伝えると『よろしく頼むよ』と父。お金のことを話しているわりにはすごく温かい時間が流れていたのだけど、一つだけ気になることがあった。

全身に水が溜まり、顔や手足も浮腫でパンパンに膨れ上がっていた父。この頃は足の浮腫は残りつつも顔や手の浮腫はだいぶひいてきていた。管だらけだったということもありこれまでは手を動かすことが難しかったんだけど、浮腫が取れてだいぶ身軽になったのか、父は見せた請求書を手にとって読んでいた。

その手が、震えている。

震えているのはどうも手先だけではない。よく見ると肩から痙攣のようにブルブルと振動している感じ。そっと肩に触れた。振動が伝わって来た。腕全体が震えていることがわかったので『寒くない?』と聞くと『いや、寒くはないかな』と父。

(じゃあどうしてこんなに震えているんだろう?)

父には腕の震えが気になっていることは伝えず、面会帰りに看護師さんに尋ねてみた。『お父さん、いつも寒い寒いとおっしゃるんですよね。あとは血管の収縮で震えているのかもしれません』という回答。

理由を聞いたはいいがよくわからなかった。でも、何がわからないかもわからず(笑)それ以上質問することができなかった。

ただ、請求書の合計額(自己負担額ではない)の250万円という数字を見て思わず手が震えてしまったとかではないってことよね。

震えが止まらない状態が明日も続いていれば、また聞いてみればいい。そんな風に少し余裕を持って父の状態を見ていられるようになって来た。一喜一憂する自分をどうにかしたいと思いつつ、まだまだ抜け出せていないんだよなぁ。

ん〜いつになったら成長するのだろうか?


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