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「暗黒面の寓話・#19:戦士の孤独」

(Sub:主人公はどんなときで孤独なもの、、、!?)

ドンファン2世号のキャビンに大きな歓声が響き渡った。
こんなにも大きな歓声は、ブラウン・ゴーストの基地から脱出した時以来かもしれない。

「でかしたぞ、ブリブリテン!」、
「おまえはスゴイ奴だ!」
「ブラボー!」、「サイコーだ!」

メンバーが口々に0007:グレート・ブリブリテンを讃えている。

0002:ジェット・リークは空中に舞い上がって飛び回っている。
0004:ハイドリッヒは空砲を打ちまくっている。
0005:モヒカンは両手の拳を高くつきあげている。
0006:チンチャコは室内だというのに炎を吹きまくっている
0008:ピュンタは床の上でエア・バタフライをしているようだ

みんな思い思いのやり方で喜びを表現している。

ただひとり、0003:フランシーヌを除いて。
彼女は憮然とした表情で他のメンバーの狂乱を眺めている。

 *************

実は、先ほど任務から戻った0007からとある報告があったのだ。

それは、なんと、!

“あの0009-n”(ゼロゼロゼロくのいち)の皆さんと懇親会(合コン)の約束を取り付けてきたというものだったのだ。

0007はもともと、破壊工作や情報収集などのスパイ活動に特化したサイボーグで、今回もそうした任務に就いた際に、彼女たちと一緒に仕事をしたらしいのだ。

“0009-n“のみなさんといえば、僕たちと同じ戦闘サイボーグでありながら、どのメンバーも超絶美人であらせられるサイボーグ界の ”宝石“ と言われる方たちなのだ。

しかも、今回の懇親会(合コン)には、彼女達のなかでも “No1” と謳われる、0009-1:ミレーヌ・ポートマンさんがおいでくださるのだ。

“0009-n“ の ”絶対エース”、“不動のセンター“、あのミレーヌ様が!

野郎どもの狂乱も当然というものだ。

僕・0009:嶋森ジョーも正直興奮が抑えられない。
実は、みなに気づかれてはいないが、僕はその瞬間に “加速” して、部屋の中を走り回りバク宙をかましていたのだ。

今日まで人知れず戦ってきたけれど、ほんとうに生きててよかった。
“神は存在する”、僕が、そう確信したその時、

0002:ジェットの野郎がとんでもない言葉をくちにした。

「ジョー、おまえは来ないよな」

“え?”、 僕は耳を疑った。
“今、なんて言ったんだ、ジェット?”、

僕がその言葉の意味を理解できずに困惑していると、
0006:チンチャコのヤツが合いの手を入れてきた。

「当然アル」、 「0009には0003がいるアル」
「0009は留守番アル」

僕が何かを言い返そうと彼らの方を見ると、
全員が微動だにせずに真っすぐに僕の方を凝視していた。

僕は一瞬、加速装置が(また)誤作動したのかと疑ってしまった。
それほどまでにその景色は、全てが凍てついて固まったものだった。

「ぼ、ぼくは、、」、

僕がことばに詰まっていたその時、
それまで刺繍をしながら傍観していた0003が言葉を発した。

「仲間ハズレはかわいそうよ」、
「行ってもいいのよ、ジョー」

そう言う0003の澄んだ瞳は氷の冷たさをたたえていた。

その表情をみて、僕は無いはずの心臓が “ぎゅっ“ とする感覚を覚えた。

0003:フランシーヌは索敵担当のサイボーグで、とにかく感覚が鋭い。
彼女は全ての感覚器官が常人の何倍もの感度をもっているのだが、
彼女のセンサーのなかでも最強なのが “女のカン” なのだ。
彼女は、僕が歯ブラシを置く位置を変えただけで、“なにか“ を察知する。

僕はその瞬間に “加速” した。
加速して、僕だけの世界に逃げ込んだ。
全てが静止した世界の中で僕は大声で叫んだ。

「こんなのあんまりだ!」
「みんな友達だと思ってたのに!」

“0009-n“ の皆さんは、各種のスパイ活動の為に各自がとても魅力的な女性として造られており、そのなかでもミレーヌ様は飛び切りチャーミングなのだ。

0003も美人だけれど、ミレーヌ様の魅力はそれとは少し違うのだ。
なんというか、僕たちの未改造の “生” の部分に訴えかける魅力があるのだ。

「僕だって、ミレーヌ様に会いたいんだよ!」、

僕は慟哭した。 そして、僕の中で ”神の存在” が消えた。

僕はひとしきりわめき散らすと、加速装置を解除した。
こちらでは、5/100000秒程度しか経過していないはずだ。
さすがの0003にも僕の叫びは聞こえていないはずだ。

「い、いや、いいんだ」、
「僕は、君とお茶をしながら皆の帰りを待つことにするよ」

僕は歯を食いしばって、いつもどおりの穏やかな笑顔で返事をした。
もし “その機能” があったなら、きっと僕は血の涙を流していただろう。

その瞬間、それまで張りつめていたその場の空気が、
一瞬でいつもの和やかさを取り戻した。

0003は満足そうに微笑んで趣味の刺繍を再開している。
”馬鹿野郎(2~8番)”どもは、ガヤガヤと “懇親会の店の相談” を始めたようだ。

この場の中で、僕はどうしようもない孤独を感じていた。
これまで共に戦ってきた仲間が急に遠くに行ってしまったような感覚。

その時、僕は間違いなく “ひとり” だった。

僕は嶋森ジョー、孤高の戦闘サイボーグ・0009だ。


「暗黒面の寓話・#20:プローブ」|十里栗 (note.com)

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