「暗黒面の寓話・#17:戦士の苦悩」
(Sub:女子は臭いに敏感だよ!気をつけて、、、!?)
「ねえ、ジョー」、彼女が声をかけてきた。
「どうしたんだい? フランシーヌ」、僕は振り向いて彼女の方を見る。
「あなた、少し臭いわよ」、「ギリモア博士と同じ匂いがする」
0003・フランシーヌは全ての感覚器官が常人の何倍もの感度がある索敵に特化したサイボーグだ。 彼女の嗅覚は警察犬並だ。
「ゴメン、フランシーヌ」、
「さっき戦闘から戻ったばかりだから、戦場の臭いが残っているんだね」、
「直ぐにシャワーを浴びるよ」
僕:0009・嶋森ジョーは、努めて明るく返事を返して、
すぐにその場を離れることにした。
平静を装ってはみたが内心で僕は酷く焦っていた。
“そろそろ、限界かもしれない”、
“無いはずの心臓“ がバクバクと脈打っていた!
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僕たちゼロゼロゼロ・サイボーグは体の多くの部分を高性能なサイバネティック艤装に置き換えていて、それによって特殊能力を発揮するサイボーグだ。
ただ、生身の部分も多少は残っていて、全身が機械というわけでもない。
(涙も流すし、汗だってかく、実は子孫を残す為の機能も残っている)
メンバーによって機械化の割合は異なるが、フランシーヌ(0003)などは最も機械化が少ないメンバーだ。
だから僕たちは戦いのない時は、ほぼ普通の人間と同じような生活をすることができる。
消化器官はないので普通の人間と同じように食事をとることはできないけれど、栄養摂取と水分補給は必要なので専用の食事を採っている。
そしてその帰結としてトイレにも行く。
そうした人間として生身の部分が残されていることが僕たちの心の救いでもある。
自分たちは ”戦う機械=兵器” ではないのだと実感することができるからだ。
ほとんどのメンバーは自分に残された生身の部分を愛おしく感じていたが、僕:0009・嶋森ジョーだけは皆に言えない複雑な感情を持っていた。
僕:0009は、加速装置を装備した高速戦闘サイボーグだ。
奥歯に仕込まれた起動スイッチを操作するだけで、体内に搭載された “時間加速装置” が僕の躰を構成する全ての原子の振動とその周りを回る電子の周回速度を加速させ、僕の躰とその僅かな周囲の時間の流れを加速する “加速フィールド” を展開させる。(停滞フィールドの逆のやつだ)
“加速フィールド” が展開すると、僕の動きは光速の1/1000程度まで加速され、周囲の者は僕の動きをとらえることができなくなる。
逆に、加速している僕からは周囲の全ての事象がほぼ停止しているような状態になる。(厳密には、とてもゆっくり動いているのだが、)
一旦、加速してしまえば機関銃の弾も避けることができるし、相手が防御をする暇もないまま一方的に攻撃することもできる。
まさに向かうところ敵なしの究極の戦闘能力と言える。
ただ、この究極の能力が今は僕の大きな悩みの種となっている。
僕の加速装置は、僕の移動速度を光速の1/1000程度にまで加速する。
光の速度は秒速30万km、時速に換算すると108000万kmhだ。
通常の人間の移動速度は駆け足で10kmhと言われており、
僕:0009は ”素” の状態で約50kmhで走ることができる。
だから、加速装置が僕の移動速度を光速の1/1000=108万kmh 相当にしているということは、加速中は僕の躰とその周囲では2万倍以上の速さで時間が進んでいることになる。(50kmh を 100万kmh にするので2万倍 )
たった1秒間加速しただけで、“加速フィールド” の中では”2万秒” = ”333分” = ”5.5時間” も時間が経過するのだ。
つまり、加速中は僕は周囲の者よりも2万倍の速さで歳をとっているのだ。
脳以外にも生身の部分が残っている以上、それら生身の部分は老化する。
これまでの幾多の戦闘の中で僕はこの加速装置を多用してきた。
そうしなければ熾烈な戦いを生き抜いてくることができなかったからだ。
その結果、僕は他のメンバーよりも ”20歳” ほど余計に歳をとってしまったのだ。
メカの部分は問題ないが、生身の部分が “若くなくなってきた” のだ。
そしてどうやら最近、“加齢臭” というものが出始めたらしい。
これまでは、必死に体を洗ってごまかしてきたのだが、それももう限界のようだ。
もともと女性は “その類“ の臭いには敏感らしいが、
0003の場合は ”犬並“ の嗅覚があるので直ぐに気づかれてしまうのだ。
平和の為に必死に戦ってきたのに、僕一人だけが “オッサン” になっていく。
“こんなのあんまりだ”
そして、これからもブラウン・ゴーストとの戦いは続くはずだ。
これからの来るべき戦いを僕はどう戦っていけばいいのだろう?
”加速するべきか?”、 ”止めておくべきか!”
僕はいったいどうすればいいのだろう!?!