パン職人の修造136 江川と修造シリーズ パン職人NO,1決定戦 Shapen your five senses
そして試合当日
大坂はタルテイーヌの食材を前にして園部、大坂、森岡や他の助手は自分のペアを組む選手が来るまで20人で待っていたが、どんどん脱落した選手の助手達ががっかりして帰っていく中で心細かった。
園部は黙って立ったままだったが食材の方をじっと見ているので「あ、何処に何があるのか覚えてるのかな?」と思い自分も順番に食材を見ていった。特にソースに使える物を見て組合せを考える「立花さんならどのソースを使うかな、今回色々教えてくれて助かったな」
そこにとうとう選手の鷲羽と佐久間が入ってきた!そして3番目に足を引きずって入って来た江川を見て心強かった「江川さん」「大坂君どうして」
とにかく選手が来たら早くタルテイーヌを仕上げる様にと修造に言われていたので「話は後ですよ江川さん」と江川を促した。
具材を選んでソースを作って捻挫した足を痛がる江川と作ったものがこれだ
江川らしい華やかな色合いのタルテイーヌだ
材料選びの時に江川がローストポークを選んだので、大坂はここぞとばかりにフルーツソースを推した。
江川がポークとソースの組み合わせを元にトッピングを考えたので急いで掻き集めて準備を始めた。
まずソースはフォンドボーにオレンジの果汁を入れて少し焦がす。ハチミツと洋酒を入れて煮詰めた後バターを最後に入れる。
カンパーニュにクリームチーズを薄く塗りローストポークをスライドさせる。後はカラフルさを出す為に四角くカットした紫キャベツ、黄色いミニトマト、キオッジャビーツ、を配しソースを振る。トッピングにデイルとカットしたオレンジで華やかさを添える。サッパリした後口にも気を使った。
そして鷲羽は
濃厚なオランデーズソース(卵・バター・レモン汁)に海老のポシェ(ボイル)を使ったもので、カンパーニュに海老を並べ、両側にバターで炒めたエシャロット、茹でたうずらの輪切り、栗のみじん切り、そしてその上にハーブとカッテージチーズを散らした。フランスのカフェで食べたものを組み合わせた。
最後に佐久間は薄切りのラムショートロインハムを使った
ソースはハリッサソース
チュニジア発祥のソースでトマト、香味野菜、オリーブオイル、塩、スパイス。それにマヨネーズを少し加えてまろやかにしてレモン果汁を少し加えてパンに塗った後、ラムショートロインハム、紫玉ねぎ、ズッキーニ、パプリカ、キャロットラペの上にヨーグルトソースを振りかけてパクチーを乗せた。個性を出したものになった。
さあ、観客に受け入れられるのはどれなのか
作ったパンは素早く選手別に並べられて50人の観客の審査が始まった。タルテイーヌを3個とも味見して集計をするのだ。
審査の間3組は立ってその様子をじっと見ていた。
自分達の勝負がかかっている。
人々が自分の考えて作ったパンをどんな顔をして食べてるのかを。
「どの人も美味しそうな顔してるな」
「俺のが1番美味しいって」
「私達が作ったものよね、早太郎」
「せやな、咲希ちゃん」
江川は不安だったが司会の横にいる修造を見ていた。
修造さんが俺を信じろって言ったんだ。
僕今日は修造さんが教えてくれた事を思い出しながらここまで進んできたんだからこれでいいよね。
審査員達に紛れて御馴染み大木と鳥井も試食をしていたがそこに佐々木、那須田も集まって来た、そしてその後ろにいた背の高い男に皆話しかけていた。那須田と佐々木はその男を「先生」と呼んでいた。前回の「パン王者選手権」同様デイレクターの四角に頼まれてこの男が全選手をアテンドしていたのだ。
大木は後に立っていたその男の方を向いて「隠れてんじゃねえよ」と言っていた。
「フフフ、良いじゃないライトのおかげでこっちからはよく見えるんだから」そう言ってニヤリと笑った。
そう、ライトに照らされて江川達6人はとうとう結果発表を見る。
今までの合計は
鷲羽 30点
江川 26点
佐久間 27点
50人の観客は食べ終えた後、席に戻り手に握ったボタンを押すように予め言われていた。赤が鷲羽、黄色が江川、青が佐久間のボタンだ。
突然大きな音楽が鳴って安藤が雄叫びをあげた。
「さあーっいよいよ集計結果が出ましたーーっ!結果発表ーーっ」
デレデレデレデレデレドーーーン!!!
「今までの全ての合計が出ます!」パッとモニターに3人の合計点数が現れた。
鷲羽 44点
江川 43点
佐久間 41点
「うわー!接戦でしたが優勝は鷲羽さんです!おめでとうございまーす」
安藤にトロフィーを渡された鷲羽は大喜びだった。.
「やった!俺の!俺様の勝ちだ!初めてお前にかったぞ江川!これが俺の実力だ!凄いな俺!やっぱフランスで修行して来たおかげだな。この調子で約束通り大木シェフの所に帰って園部と世界大会を目指すぞ」
鷲羽は過去にズルいやり方で無理矢理江川に勝ったが流石にそれは計算に入れていなかった。
ハハハハと笑う鷲羽の声を聞いて大坂が「よくしゃべりますね」と江川に囁いた。
江川は苦笑いしたが鷲羽と園部に向かって言った「2人とも頑張ってね、ねえフランスの学校はどうだったの」
「それは」と言いかけて鷲羽は急に言うのを止めた「いずれまたお前と戦うんだ、お前には教えてやらん!」と首に手を当ててから大きなジェスチャーでシッシッと追い払う仕草をしてきた。
「なんだよぅ鷲羽君のケチ」悔しそうな江川に「フン!またな、江川」そう言って鷲羽は園部と2人で去って行った。
収録も終わり、パンのお土産がいっぱい入ったバッグをぶら下げて帰る観客の真ん中を歩きながら「鷲羽はきっと世界を目指せるな」と言いながら大木は背の高い男に聞いた「おいお前は誰に投票した?」
「うん、ハチミツと洋酒の量が正解だったよね」
ーーーー
結局鷲羽に負けて2位になった。
江川は修造に対して申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
首を項垂れて次の日出社した。
「江川さんテレビ見ましたよ、あれ作って下さいよ」
「私も食べたい」
「美味しそうだった」
「お疲れ様でした」など工房のみんなが囲んで声を掛けてくれたが心は晴れない。
大坂だけが立花に「フルーツソースが上手くいって良かったわね」と言われて有頂天になった。
江川は修造に会うために事務所のある2階への階段を足取り重く登った。
「修造さん」
「江川、昨日はお疲れさん」
「僕負けちゃいました」
「江川、秤なしでちゃんと生地ができた。惑わされず分割できた。生地を取り出せた。美味いタルテイーヌが作れた。お前のタルテイーヌが1位だった。なんか文句あるか」
それを聞いて江川のモヤモヤは吹き飛んだ。
「1位は鷲羽にプレゼントしてやれ」
おわり
タルテイーヌはフランス式オープンサンドイッチ、焼き込みやスモーブロー風など様々なトッピングやパンを楽しめます。今回は3組の個性に合わせてトッピングを考えてみました。イラストは高さを陰影で出すのに乗算とハイライトを使いました。
パン屋さんはパンを作る時に沢山の事を考えています、水の量、温度、湿度、発酵具合、他の生地との時間の兼ね合い、人の配置、休憩時間の采配、お客さんの出入りとパンの製造量の増減、仕入れと消耗品の管理、支払い、シフトの事、事務の事、店のSNS、そして常に人間関係が付きまといます。毎日取り組んでいくうちに徐々に慣れてきて出来る事が分かってきたり他の人にやって貰ったりして日々を乗り切っていくのです。修造は江川という唯一無二の存在に助けられていくうちにある決心をします。そのお話はもう少し後になります。
次のお話はパンロンドやお馴染みの人が出てきてバタバタします。
今回は人物の構図と陰影に重点を置いてみました。修造はより男性らしく、江川は中性的に描いてるうちにどうにもBLっぽくなっていくのですが、、、(このお話はBLではありません)
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