国際機関をクビになった場合の出口戦略(保健分野)

JPO試験に受かるのも大変ではあるが、JPO後も国際機関に残り、10~20年と働き続けるのは大変である。変な上司に当たってしまったとか、仕事で成果が出なかったとか、資金がなかった等々、日本に戻らなきゃいけなくなることもあるだろう。医療職の場合は臨床に戻るという手もあるのだが、可能なら国際協力や公衆衛生の仕事を続けたい(=再び海外に行くチャンスに恵まれた時に職歴的にプラスになる)とも思う。

そこで本稿では、国際機関を退職して日本に戻ることになった場合に、どのような働き口があるだろうか?という選択肢を(MECEではないが)列挙し、できる限り考察してみた(下記選択肢を全て経験した訳ではないので…)。考察して改めて思うのは、transferableなスキルや専門性は(国連を退職した後も)身を助ける、という点である。国際機関をクビになってからあたふたするのでは遅く、中長期的なキャリアプラン&在職中からの準備が必要だろう。

また、以下にはrevolvingな社風の会社が含まれている。つまり国際機関に挑戦する前に以下の会社を経由しておくと、仮に国際機関をクビになったとしても、出戻ることができるかもしれない。そのような観点から就職先を選ぶのも1つの考え方なのかもしれない(そんな発想は当時の私には全くなかったが…)。


公的セクター

公官庁(厚労省、外務省等)

厚労省国際課や外務省国際保健政策室が不定期ではあるが任期付き職員を募集している。こうした仕事はいわゆるglobal health diplomacyであり国支援の仕事ではないのだが、国際機関で働いてきた経験が重宝されるだろう。また厚労省結核感染症課も任期付き職員を募集しているようで、感染症のバックグラウンドがある方には選択肢になり得るだろう。

国立国際医療研究センター(NCGM) 国際医療協力局

国際医療協力の専門家をプールし、JICAの技術協力プロジェクト等に派遣している組織である。医療従事者(特に医師)の採用がほとんどだったが、近年は非医療者の採用も拡大している。ちなみに2024年には↓のNIIDと統合され、国立健康危機管理研究機構になるらしい。

国立感染症研究所(NIID)

主に国内の公衆衛生を取り扱うことになってしまうかもしれないが、感染症関連のバックグラウンド(疫学、臨床検査等)がある方にとって、感染研は1つの選択肢だろう。ちなみに2024年には↑のNCGMと統合され、国立健康危機管理研究機構になるらしい。

国際協力機構(JICA)

例えば、国際協力専門員は「関連する職歴が10年以上」というシニアなポジション&技術的専門性が要求されるが魅力的な仕事だと思う。年2回ほど募集があるようだ。

民間セクター

コンサルティング(開発コンサルを除く)

若干勢いに陰りがあるものの、ここ数年、多くの戦略/総合コンサル会社は採用(中途を含む)を拡大している。国際協力ど真ん中の案件はほとんどないだろうが、ヘルスケア(製薬を含む)や公的セクター関連の案件で活躍する機会がありそうだ。給料も公的セクターより良いだろう。30半ばとかで更に馬車馬のように働きたいか?というのは自問自答した方が良さそうだが…

国際機関で働ける学歴・職歴があるくらいなら、CVスクリーニングで足切りされる可能性は低いだろう。となるとネックはケース面接の突破だろう。これまた準備に時間を要する。当然だが出題されるケースは、医療と全く関係ないビジネスに関するものがほとんどである。なのでコンサル業界への転職を希望する場合は、↑の対策を指導してくれるような業者に前もって相談するのが良いだろう。多くのコンサル会社は一度不採用になると2~3年間は出願できなくなるので、準備不足で受験して撃沈することは避けたい。

製薬企業

昨今の製薬企業はreal world data (RWD)分析のために疫学専門家、health economics and outcome research (HEOR)のために医療/薬剤経済学専門家、Medical Affairsには医師、等のように医療/公衆衛生専門家を雇っている。修士課程で疫学や医療の経済評価をしっかり学び、可能なら論文出版実績があれば、同分野に転職できるかもしれない。また医療従事者に臓器・器官別の専門性や当該分野での論文出版実績があれば、Medical Affairsに転職しやすいかもしれない。英語での実務経験があれば、給料・待遇の良い外資系製薬企業が狙えるかもしれない。

製薬企業への転職は転職エージェントの縄張りなので、さっさとエージェントにアポを取って、話を詳しく聞いてみるべきだろう。ただし、どのエージェントを使えば良いのか等は私も経験がないので分からない。各々調べて頂くしかない。

ちなみに製薬企業での職歴はWHOに入職する際に開示するべきinterestの1つである。ただタバコ/兵器産業での職歴とは異なり、製薬企業での職歴があることで直ちに不採用になることはないので、心配は無用である。

開発コンサル

主にJICA案件を受注している開発コンサル会社も医療従事者を雇っている。例えば↓のようなセミナーも開催されているそうなので、参加してみて話を聞いみると良いだろう。

アカデミア

一見すると有力な転職先に思えるが、国際機関を退職した後にアカデミアで仕事を得るためには、いくつかのハードルがある。国際機関で働いてました!というだけで、大学でポジションをゲットできる程、世の中甘くない。

まず博士を取得しなければいけない。例えば、JPO制度を通じて国際機関で働き始めた若手職員だと、修士しか保有してない場合も多い。その場合は、働きながらパートタイムで博士課程に通うか、退職後にフルタイムで博士課程に通う必要がある。前者はタイムマネジメントが、後者は家計のやりくりが(特に扶養家族がいる場合)大変である。

次に研究実績である。例えば、IOMやWFPなどフィールド活動を主体とする国際機関では、研究&論文執筆を伴う仕事はほぼないだろう。WHOでも、本部で働かなければ規範的業務には従事しない。じゃあ本業で研究ができないなら、週末等を用いて所属組織外で研究してやろう!という発想に至るかもしれないが、家族対応等で時間の確保が難しい場合もあるだろう。

別の切り口としては、国際機関で働き始める前に(フルタイムで)博士を取得しておけば良いのでは?という視点である。JPO等の機会は年齢制限もあるので一概には言えないが、選択肢としてアリだと思う。特に欧米のトップスクールから博士を取得することができれば、欧米アカデミアへの就職も含めて、その後の選択肢も広がるだろう。

非営利セクター(NGO/NPO等)

まず日本のNGO/NPOは薄給である(場合が多い)という問題がある。あなたに扶養家族がいて一家の大黒柱だとすると、もしかしたら選択肢として現実的ではないかもしれない。その場合は、収入を得るための本業は別に確保し、ボランティアでNGO/NPOの活動に関わることになるだろう。

その点、欧米の特に大手のNGO/NPOであれば、それなりの給料水準は担保されそうである。しかし、それらNGO/NPOが外国人であるあなたのビザをスポンサーしてくれるかどうかは、私もよく分からない。求人のjob descriptionにも、任地が本部であれ国事務所であれ、任地で合法的に働けること(=任地の市民や永住権保持者)をしれっと条件に記載してあることも多い。

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