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社長になれば勝てた時代 〜 失われた20年の考察(1) N57

 バブル崩壊後の1990年初頭からの失われた20年の間、国内だけでは収まらず世界中のトップ経済学者が日本の不景気の原因を掘り当て景気を上向かせるための手段を助言した。しかし未来を分析することは困難であり、特に経済は経済政策が明るみになることによる心理的な影響もあり、ナマズをつかむような時代だった。

 過去となった今では人口が1つの大きな原因であることがわかってきた。日本では藻谷浩介さんの「デフレの正体」が皮切りになり、その人口増減(特に団塊Jrの影響)によって起きていたことが判明した。過去に投資先の紹介で1度藻谷さんと話をする機会があり、主要統計数だけを見ても実体経済の原因を把握できないことについて話が盛り上がったのを覚えている。実際、2000年半ばまではまだ世界の経済学者の中でも人口についての影響はまだ分析が浅く、私の留学先は欧州トップの経済研究をしている大学だったが、その教授と議論をしてもなかなか人口の影響については受け入れてもらえなかった。

 さて、表題の「社長になれば勝てた時代」とは何が言いたいかというと、この失われた20年の期間は仕事がなく賃金がかなり安く抑えられていた。つまり被雇用者にとっては真冬の時代であり働いても期待する賃金を得ることができなかった時代だ。就職氷河期の世代は希望する会社はおろか、希望する職種にもつけず、希望する雇用形態にもつけなかった。私のまわりでも東京大学を卒業してもただの人、早稲田大学商学部を卒業してもアルバイトという人が珍しくなかった。別の世代からすると信じられないことなんだろうと思う。

 そして逆の見方をすると雇用者にとっては人材がこの上なく安く採用できるこの上なく有利な時代だったのだ。身の回りでも無謀な起業をした人が何人かいたが、優秀な人材確保に困ることなく、社員に助けられて事業を軌道に乗せたような話もよくあった。また近年のクロネコヤマトの人手不足、吉野家のアルバイト不足のニュースは記憶に新しいが経済が上向き始め労働人口が下がり始めると急速にこの立場が利用できなくなる良い例だ。とはいえ、私はまだ人手不足というよりも賃金が安いことが問題で、賃金を上げさえすれば人手不足の問題は解消されると考えている。安いままでと考えるから貧しい国から人を呼ぶという話になるのだが、呼ばれる方も奴隷の仕事を好きでやりたいわけではない。

 実際のサラリーマンの平均年収と有効求人倍率の推移を見てみたい。1998年をピークに賃金は下降を続けている。また有効求人倍率は1993年以降1.0を割り続けている。2000年半ばの好景気で一度1.0を超えたが金融危機が起きてまた割り込んだ。しかし2010年代後半は人手不足が影響して伸びはじめた。 

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 またサラリーマン人口(人数)の推移と平均年収を合わせて見ると人口は増えながらも賃金は下がっていたことがわかる。まさに社長になれば勝てた時代なのだ。

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 そしてコロナ後の世界だが、短期的に賃金は下がるだろうが就職氷河期のような就職難にはならないと私は考える。理由はまだまだ人出の絶対数は不足しており、好まない仕事をする限り仕事に困ることはない。別の言い方をすればまた昔のような雇用者優位の時代に逆戻りするだけの話だ。しかし中期的に見れば景気の見通しが立ち明るい展望が見えればより深刻な人出不足が発生し、日本もいよいよ構造改革に進む機会が訪れると信じたい。その最初の一歩は賃金の上昇である。   

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