将棋の読み物 文庫本5選
『真剣師 小池重明』団 鬼六 幻冬舎アウトロー文庫/『盤上のアルファ』塩田武士 講談社文庫/『勝負師』坂口安吾 中公文庫/『将棋の子』大崎善生 講談社文庫/『将棋エッセイコレクション』後藤元気編 ちくま文庫
以下、『盤上のアルファ』塩田武士より抜粋
「人間は丸くて短いものに、愛情を注ぐように出来ている。」「洗顔と洗髪に曖昧な境界線しかないのは、丸坊主の特権である。」「女が別れを告げるときは、沈黙の臓器と言われる膵臓に癌が発見されるようなもので、大抵はどうにもならない。」「努力の質は時間の長短ではなく、想いの深さで決まる。」
つい2~3年ほど前から将棋棋士の羽生九段や藤井竜王(当時はプロになったばかりだった)の活躍に刺激されて将棋教室に通い始めた。”本”を長年仕事にしてきた僕は先ず、本を読むことから入っていくのが普通だが、将棋ならばルールや指し方の本から読み始めるのだが、傍ら小説やエッセイなども読んでみた。
そのなかで面白かった文庫を5冊。どれもそれぞれ面白かったが、例えば団鬼六という作家は、あの緊縛とか人妻とかそういう本ばかりと思っていたがさにあらん。で、このうち3冊は「真剣師」とか「勝負師」もの。将棋はもともと大陸から渡ってきて平安時代ごろに貴族の娯楽になり、その後、江戸時代に家元制のようになり、日本将棋連盟が発足して現在に至っているが、一方、プロの賭け事師もたくさんいた。団鬼六という作家は、あの緊縛とか人妻とか肉体のとかいうお題のものばかり書いているものと思ったが、これはその賭け将棋の話。
『盤上のアルファ』は将棋担当新聞記者とプロ棋士を目指す男の物語から気に入った文を抜粋した。どう?かっこいいし激しく納得してしまった。特に「女が別れを告げるときは」なんて思わず泣けてきた。
『将棋の子』は奨励会でプロを目指す少年たちの話。奨励会に入会する少年たちは皆、地元では天才と呼ばれ将来を嘱望されて集まってくるが、多くはプロへの厳しい道から脱落し挫折し去っていく。これは本当に胸にじんとくるノンフィクションだ。この作者は『聖の青春』という映画にもなったすばらしい本も書いている。