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知識創造組織における【暗黙知】の共有について考えてみた

この記事は、丸井グループ・marui unite ・Mutureの有志メンバーによるアドベントカレンダーに参加しています。

こんにちは
私は現在、丸井グループで「人事部 人事企画担当」「DX推進室」「スタートアップとの共創チーム(RelieFood)」の3つの組織を兼任しながら、社内で開催された「第1回好きを応援するコンクール」にファイナリストとして登壇・提案した企画の実現に向け、プロジェクトに携わっています。
アドベントカレンダーへの参加をきっかけに、一視点から日ごろ考えていることなどを書いてみようと思いました。よろしくお願いいたします。


暗黙知について考えた背景

知識経営の生みの親として知られる野中郁次郎氏により『知識創造企業』で提唱された知識創造理論については広く知られており「西洋は形式知、東洋は暗黙知重視の文化を持ち、日本企業が優れているのは暗黙知と形式知をうまく連動させて経営するところにある」とし、個人の知識を組織的に共有し、より高次の知識を生み出すプロセスを「SECI(セキ)」として体系化することで広く認知されています。

イノベーション創出において、暗黙知と形式知が複雑に絡み合わせながらSECIサイクルを回す

自身が働いている丸井グループでは現在、「知識創造型ビジネス」への転換を迎えています。
イノベーション創出において重要な「個人と個人の相互作用、組織と組織の相互作用で、ダイナミックに変化・深化・進化していく」つまり「暗黙知と形式知を相互作用させながら知識創造のサイクルを回していく」新しい企業文化に変革しつつあります。
具体的には2005年から推進してきた「手挙げの文化」「職種変更」「対話の文化」等の「企業文化1.0」の8つの施策により企業文化を変革し、2023年には「企業文化2.0」へ進化をスタートさせました

丸井グループの人的資本経営#2より

そんな中、なぜ私が「暗黙知の共有」について改めて考えたのか、それは「言葉で簡単には伝わらない、形式知化が難しいが、背景として説明を避けられない種類の暗黙知」を「情報や経験、立場、スキルの違い(知の多様性・知の格差を含む)を越えて丁寧に対話することの大切さ」について、頭では理解しつつも、時間の制約や多様な価値観の広がりや、VUCA時代で変化のスピードが加速するといった環境の中、自身がどう向き合い行動するのが適当なのか?と思ったことがきっかけです。

前置きが長くなりましたが、この記事では「言語化、形式知化しにくい暗黙知」「ありたい姿と学んだこと」「今後自身が取り組みたいこと」について自身の考えをまとめてみましたので、1人のある視点での考え方として、読んでいいただけると嬉しいです。

暗黙知が生まれる環境と、言語化が難しい部分

私は、前提として「暗黙知」は、あらゆる場所・環境での経験・学び・対話などの中で生まれ、また時には「既にある知」と「新たな知」の点と点が線になり、新たな知が生まれていくこともあるものだと考えています。

私自身、幼少期から好奇心旺盛で常に新しいことを考え行動し、体験することが好きで、大人になってからは、ふと思い立って1人で海外などに行くこともしばしばあり、新しい「知」を得ることに貪欲なところがあります。

仕事面においても、その性質は例外ではなく、新卒で入社してから現在まで、常に新しいことを企画し行動してきました。常に新しいことにチャレンジできる環境だからこそ、20年以上同じ会社で働きがいを持っていられるのだと思います。

ビジネスとプライベートで生まれた知の融合イメージ

前章で少し書きましたが、丸井グループの企業文化の変革に関して「人材版伊藤リポート2.0」の「実践事例集」にも一部掲載されていますので、その内容に沿って、自身の一社員としての体験や、その体験から生まれた暗黙知の言語化の難しさ、それにどのように対応しようと思うかを書いてみます。

1.丸井グループの「手挙げの文化」

丸井グループでは、中期経営推進会議、自社が主催するスタートアップや社内外のコンクール、社内のプロジェクトや各種研修、スタートアップとの共創チーム、ビジネススクールへの派遣や職種変更(グループ間異動)など、殆どの場への参画について、社員一人ひとりの自律的な「手挙げ」と、課題(作文や企画書など)による審査を経て決定するのが基本です。
2022年3月には全社員の8割強が自ら手挙げをし参画しています。
(丸井グループの人的資本経営#1)

引用:人材版伊藤レポート2.0「実践事例集」P.63

私は、この手挙げに関して、結構参画している自覚はありましたが、オフィシャルな公募だけでも「61回」参加していました。

参画した取り組みは、ビジネススクール派遣、GCIなどのような現業のスキルアップに繋がるものや、プロジェクト、コンクールへの登壇、各種テーマに関する社外の有識者のご講話・その後の多様な価値観を持つ社員同士の対話など、体験自体が暗黙知となるものなど様々なケースがあります。

会社の公募に手挙げし参画することをきっかけに、普段は自身のフィルターに掛からないテーマに関しても考え体験することで、新たな視点が生まれたり、同じテーマでも自身と全く異なる価値観の方々との対話を通じ、化学反応のようなものが生まれたり、それがまた新たな知になり、それが新たな価値、ビジネスの種にもなっていることを実感しています。

引用:人材版伊藤レポート2.0「実践事例集」P.65

また、手挙げ参加などで得た「知」を組織の他のメンバーと対話しながら共有し、言語化できる範囲で知の共有し、新たに手挙げ自体に興味を持つメンバーや、多角的な視点を取り入れるようになるメンバーなどなども現れ、「受け身」から「自走」「共創」への変化、暗黙知が形式知に変化し「表出化」「結合化」して新たな価値を生み出すこともありました。

いっぽう、自ら知を探求する2割の人には比較的伝わりやすく、対話の中で新たな知が生まれやすいものの、他方では、社員間の知や情報の格差、視野・視座の違いなどに加え、体験してみないと伝わりにくい情動的・五感的な経験や、言語化できたとしても、バイアスによって理解されにくいケースなども少なくないのが現状です。

暗黙知を1から丁寧に対話を通じ伝え・引き出すのは理想だとは理解しつつも、現実問題なかなか難しいとあきらめてしまいそうになることもあります。また、私自身も他者の暗黙知を時間をかけて聞いたことも、これまであまり無かったように思います。

2.丸井グループの「グループ間職種変更異動」

丸井グループでは、社員一人ひとりの成長促進や、多様な事業を経験した個人からなるチームを形成することで、変化への対応力を高めイノベーションを創出できる企業となることを目指し、半年に1度人事異動が行われます。

引用:人材版伊藤レポート2.0「実践事例集」P.64

自身も様々な職種変更を経験し、現所属の共創チームにも手挙げで参画しています。経歴は書くと長くなるので「自己紹介」のリンクを貼っておきますが、商品(接客・バイヤー)、EC、経営企画、データアナリティクス、システム開発、人事企画、DX推進、スタートアップとの共創等を経験しました。

今まで経験したどの組織でも共通するのは「新しいことを企画提案・実装する」ことにいつも取り組んでいたということです。
この「0→1」の経験は、弊社には経験者が多くはなかったり、決まった型で形式化できるものもあれば、言語化できない暗黙知(体験)のものもあり、これもまた、共有するのが難しいケースも多いと感じています。

暗黙知に関する本を読んでみた

さて、ここでそもそもの目的=ありたい理想の姿を振り返ってみます。
弊社は現在、「知識創造型」の組織への変革期を迎えています。そこで重要なのは、個人の知識を組織的に共有し、より高次の知識を生み出すプロセスを「SECI(セキ)」として体系化することです。

再掲:SECI(セキ)モデル 

その目的の阻害要因として(あくまで個人的な考えですが)、形式知化できない暗黙知、言語化し共有しても伝わりにくいケースが現状少なくないため、この現状をどう乗り越えるか、まずは本を読んで考えてみました。

1.暗黙知の次元

私たちは言葉にできるより多くのことを知ることができる。(中略)ある人の顔を知っているとき、私たちはその顔を千人、いや百万人の中からでも見分けることができる。しかし、通常、私たちは、どのようにして自分が知っている顔を見分けるのか分からない。だからこうした認知の多くは、言葉に置き換えられないのだ。(中略)しかも私たちは、どういう風にして照合したのか、言葉にすることはできない。まさにこうした照合のやり方こそ、言葉にすることのできない認識が存在することを示している。

「暗黙知の次元」マイケル・ポランニー 著・高橋勇夫訳

最後まで読み進めてみるとなるほど!と思う部分がたくさんありました。長くなるので詳細の感想はまた別の機会にしたいと思いますが、この部分だけでも、すべての知が形式知化できるわけではない、つまり体験からしか得られないこともあるということが見て取れました。
別の視点で考えると、同じことを体験したことがある人が自分以外にもいる場合、その人は言語化できない知を共有できる貴重な相手であるともいえるのでは、と思いました。

一つ、そのような対話の事例を思い出しました。
人事企画とDX推進室の同僚に”たけぴ”という方がいるのですが、実は7年前に手挙げで・選考を通過した20名が参加できる海外派遣に同じタイミングで参加し、サンフランシスコ・シアトルで8日間過ごした経験があります。

先日、会社でアメリカ土産のチョコレートをいただく機会があり、普段なら「あ、甘い、おいしい」という感想だけなのですが、その時は、たけぴが「あやさん、これサンフランシスコの味ですよね!」と言ったところから、言葉にならないけど何か通じる!という感覚があり「そう!あのスーパーの試食で食べた味だ!」と、言語化できないことで共感し合うことができ、それをきっかけに、当時感じていた色々な体験が思い起こされ、そうした会話を続ける中で、7年前の「ノードストロームでの体験」と、今DX推進室で関わっている「アジャイル」がつながったように感じた瞬間がありました。

当時の私は、せっかくだからノードストロームで靴を買いたいなと思っていたので、フリー時間にノードストロームの靴売場でショッピングしました。
その靴売り場のオペレーションがそれまで経験したことのない形でシステム化されており、とても効率的で快適だなと、その時は何気なく思いました。

先日のたけぴとの会話の中で「今思うとあのオペレーションはアジャイルっぽかった、あのシステムって日本でも使えそう」と一歩先の発想が生まれたのですが、これは共通の経験を持っている者同士ならではだと思います。
こうした何気ない体験の対話がイノベーションに繋がることもあるのではないか、と思った一つの事例でした。

対話の中で当時の体験を振り返ることで、知と知がつながったときのイメージ

2.問いかけの作法

実は著者の安斎 勇樹氏のnoteの記事がとても解りやすく、noteでもフォローさせていただいていますが、こちらの本も(「問いのデザイン」も)とても解りやすかったです。
主にワークショップ型組織での対話の方法について書かれています。

(前略)一人ひとりの意見に対して、「なぜこの人は、この意見にこだわっているのか」と、お互いの背後にある「見えない前提」について深く理解しようとする土壌がなければ、異なる視点が交差するワークショップ型のコミュニケーションには移行できないでしょう。
これが、部分的な分業が招く、「関係性の固定化」という現代病です。
(中略)ワークショップ型にとって重要な、お互いの多様な「こだわり」を理解したうえで、それをチームにとって共通の「こだわり」に昇華させていくプロセスには、「対話」が不可欠であることがわかるでしょう。

「問いかけの作法  チームの魅力と才能を引き出す技術」安斎 勇樹 著

事例のケースが、自身もよく経験することも多かったため、共感しつつ、あたらめて対話の重要さ、その方法に関して考えさせられました。

3.共に働くことの意味を問い直す: 職場の現象学入門

主に「場」の在り方について現象学という視点もふまえ解りやすく解説されています。
実は、手挙げで露木氏の講演に参加させていただいたこともあり、そこでも印象に残った言葉がいくつかあります。

・言語的コミュニケーションの背景に、無意識に感じているものがある
・今感じているこの気持ち・状況は「関身体性」
・感じていることを言葉にする努力は大事だが、感じていることを無理に言葉にしても通じないこともある。
・背景に退ているものの中に、自分には見えないが意味があるものが隠れいているかもしれない。
・各自が部分しか見ていないから、部分を全体だと思う
・全体の一部であるのに、それぞれ違う視点から見ていることに気づかない

露木恵美子氏

フッサール思想のエポケーに関しての考え方

私たちは、目の前にリンゴがあると
「リンゴが客観的に存在している」と感じる。
フッサールはこの当たり前に違和感を感じます。
「リンゴが存在しているのは主観的な感覚であり、人間が持っている認識能力によりリンゴが存在していると勘違いしている可能性もある。」
このことに気が付いたフッサールは、
「勝手に客観的だと感じることをやめることから始めよう」と考える
この、いったん「判断停止」することを「エポケー」という

フッサール

自身の解釈では、例えば対話の中で異なる考えを持つ対象同士がコンフリクトした時に、相手の考えは正しくないと決めつけず、一旦判断停止する。
エポケーして暫くしてから違う角度からそれらを考えてみると、ふとそれが自身の知の点と結びついて新たな線になることがある。
というようなことだと考えています。

今後自身が取り組みたいこと

自社が知識創造型企業への変革期である今、個人の知識を組織的に共有し、より高次の知識を生み出していくことが求められる中、人的資本視点でも企業文化の新たなフェーズに差し掛かっています。

それらを推進していくうえでの課題と考えているのは、多様化する経歴、社員間の知や情報・スキル格差、視野・視座の違いが背景にある中で、言語化しにくい暗黙知、または言語化だけでは伝わりにくい知をどのように結合化し、イノベーションに繋げていくか。

まずは、共通の体験を持つ仲間を増やすこと、情動的な場の構築、背景まで伝え・引き出す対話方法の工夫、エポケーによる新たな知の創出など、自身が取り組めるところから取り組んでいきたいと考えています。

長くなりましたが、最後までご覧いただきありがとうございました。

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