今も昔ものぼせには『足三里』に灸すべし ー徒然草:兼好法師が伝えるセルフケアのすすめー
枕草子、方丈記と並び、日本三大随筆の一つにもなっている徒然草にも足三里の灸についての話題を見出せる。
冒頭、「つれづれなるままに、日暮らし、硯(すずり)に向かひて・・・」の一節で始まる徒然草は兼好が日常生活の中で見聞した出来事、経験から得た考えや逸話を気の向くままに書きつづった隋筆である。
その第148段に『四十以後の人、身に灸を加へて、三里を焼かざれば、上気の事あり。必ず灸すべし。』とある。
彼が生きた鎌倉時代の人々の生活にも健康づくりとして足三里の灸が用いられていたようで、40歳を過ぎた人は、上気(のぼせ)を予防するためには必ず足三里に灸をすべきと説かれている。
のぼせは脳血流が増加して上気することをはじめ、精神的に興奮して前後のわきまえを失うことなどを指している。現代風に考えるとのぼせは高血圧や更年期障害、ストレスなどが関わっているとみなせるだろう。
さて、40歳以後といえば、仕事の場においても管理職としてストレスが多い日々を送っている人も多いのではないだろうか。
イライラが募って頭に血が登る、気が上に登る、のぼせて顔が赤く熱くなる状態を少し落ち着かせるためにも、三里の灸は良いとされる。
最近、「推し活」として贔屓の芸能人やミュージシャンなどを愛でたり応援するために課金する人が増えており、推し活がエスカレートして犯罪につながるケースなどが世間を騒がせている。これもある種の上気であろう。「病膏肓(やまいこうこう)に入る」に任せず、早めに三里への灸を試みてはどうだろうか。
「月あかりの庭にて灸を焼けるに、われ心地よきことを得たり」
この一節からわかるように、兼好法師は一日の終りに月あかりの庭で灸のケアをした際に感じる心地よさを記している。
一日の締めくりとして、お灸で身体をリラックスして就寝するのは四十以後の人には癒やしとなろう。