詩)渋谷センター街漂流
ほんとうはあいつは目の前の男にビールでもぶっかけてやりたかったに違いない ねえあの店の子 可愛いよね眼が大きくて あたしもあんなふうに眼が大きい子になりたかった 煙草の煙がショボいテーブルの上でふらふらと湧き上がる となりの席ではキラキラ飲み会の女子たちがきゃあきゃあ声をあげて こちらの会話は半分も聞こえない ここは渋谷のセンター街 俺は半分聞こえないけれど聞こえた風に相槌を打ってなんとなく頷く 飲み放題のブルーベリーのフルーツサワーはほとんど味がない そういえば無味乾燥な毎日だね あたしずっと三時間くらいしか寝てないの おんなってある時期やりまくるくらいの方があとでまともになるでしょ? そう思わない? ずっとまじだと加減がわからないから変な男も素敵な男に見えるのよ こちらの顔を見て言う
俺はふーんそんなものかなと思ったが 「そうだね」と返事をする 相変わらず隣のボリュームが最大限で フルーツサワーをパインやらイチゴやらとっかえひっかえ飲むが どれも同じ味に思える ねえ生きてるって悲しいのか楽しいかわからないね あんたっていっつも幸せそうな顔してる 人生が楽ちんだった顔 そういう顔の人って何を考えてるかわからない ストーカー男とか 短気な男とか 自己中とか いままでいろいろいたけど だいたい男は自分が大好きじゃない そうでしょ 自分をずっと探してるなんて平気で言うのよ ねえトイレ行きたい トイレどこ?
あたし 待ってるの 自分はもう自分じゃないんだと思う なにかもう別のものになってるの そんなことないと思うけれどあるかもしれないんだ そう思っていると生きていられる みんなどうして平気で生きていられるのかな わからない
店を出て 渋谷の雑踏を方向感覚を失いながら歩いた
何処へ行くのだろう
何処へ行けばいいのか
流されて流されて
歩いて
歩いて