詩)透明な数字
いつのまに忘れることに慣れてしまったのだろう
痛みも苦しみも分かち合うことも忘れて
怒らないことに慣れて
人の死を悼まなくなったのだろう
輪島市の森田としみさん(55)は地震発生から3日がたった1月4日、市内の特別養護老人ホームに入所していた母親の高山君子さん(83)を肺炎で亡くした。母親は7年前に発症した脳出血の後遺症で体にまひが残り寝たきりの生活だったが、会話も出来て元気だった。母親の容体が悪いとの連絡を受け4時間かけて施設にたどりついたが、到着の20分前に母親は亡くなっていた。施設では断水や停電が続いていて、数人の高齢者が入っていた部屋に石油ストーブは一つという状況だった。森田さんは当初、「災害関連死の認定」に遺族の申請が必要であると知らなかった。6月、母親は災害関連死と認定された。遺族の中は「災害関連死認定」の制度を知らずに申請されていないケースがある。
1月10日中学校に避難していた心臓に持病のある男性(86)が急性心不全で亡くなった。男性は体育館の床に敷かれたマットの上で寝泊まりしていた。電気が復旧しておらず、広い体育館に数台しかない灯油ストーブ。冬の避難所の夜の底冷えは応える。男性は日に日に元気がなくなり食欲も落ちていった。上着を何枚も重ね着して何とかしのごうとしていた。男性はどんな思いで寒さに耐えていただろう。何か言い残したいことはなかったか。
能登半島地震の災害関連死は2024年12月現在で276人となり直接死の228人を上回っている。「持病があり地震との因果関係が認められない」として不認定となった人も38人いる。
いつのまに 忘れることに慣れてしまったのだろう
痛みも苦しみも分かち合うことも忘れて
怒らないことに慣れて
あの体育館の「冷たいマット」は
透明な数字だけになっていく