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詩)からっぽの箱

なにもしないでいる
じっとしている
もう ここにはいられない
それがやっとわかった

男は戻ろうとする 戻れないところへ
そこがどこだか わからないまま
そこはもう 
誰かのもので 

いつまでも ひとに求めて
なんだか あたりまえのように
でも もうそれは 
手のひらにはない

諦めきれない 世界の先には
空漠とした世界があり
ここから先は もう
決別を促す

男はいつも そうして決別して
そこになにもないのに
からっぽの箱に自分を押し込め
最期の時 そのことをどう思うのだろう

老いを抱えて そらはいつも曇り
そんな時が来る 
それは生きている当たり前を受け入れること
男は 中身のない箱にいつまで収まろうとする

その悲しい性を 断ち切れぬまま
結局 自分とは何かわからぬまま
箱の中で ぶつかり 上や下に
右往左往し その箱から一歩も出られず

最期の最期 押し付けられていた
なんの価値もない 地位やらを
箱の外から 見ることもなく 
一度も自分がなんなのか問うこともなく

問うこともなく 終わるのだろうか
苦しみの中に喜びがあることを知らず
悲しみの中に真の美しい歌があることを知らず
分かち合うことの喜びを知らず

引き返すことが必要だと知らず
生はただ一度しかないことを自覚せず
苦しくとも真っ直ぐに生きることがどれほど価値があるか わからず
貧しくとも 愛は深いと知らず

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げん(高細玄一)文学フリマ東京39 な-20
2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します