月をうむ 14
第14話 月宿る
月が消えてから十日。
モジャリがおなかを痛めてから三日。
ぽっかり広場でウンウンうなりながら体を横たえていたモジャリは、我慢しきれずに叫びます。
「痛ぇ、痛ぇよぉ。腹の中を切り裂かれるようだぁ」
ヒカリはモジャリのおなかにそっと手をあてました。
モジャリのおなかの中からまぶしい光が放たれます。
モジャリのおなかの光は細い鎌のような形になっていました。
「……これは、三日月?」
ヒカリはぽつりとつぶやきました。
住人たちはモジャリのおなかの中から発せられる光に興味を示しました。
「かわいそうに、痛いのね。これで少しは楽になる?」
ヒカリはモジャリのおなかをやさしくなでさすります。
すると、おなかの光は一層まぶしく青白く輝きました。
「これは月の光だ……。まっくら森に降り注ぐ月の光だ」
住人たちは久しぶりに見る月の輝きを前にしてどっと歓声に沸きました。
そんな中、こびとじいさんはカーッと顔を赤くして、モジャリに飛びかかりました。
「やっぱりおまえが飲んでいたから月がなくなったんだな!」
こびとじいさんはモジャリに馬乗りになって、ぽかぽかと殴りつけようとしましたが、ほかのこびとたちが止めに入りました。
「待て待て。今モジャリに何かあったら月まで消えてしまうかもしれないぞ」
「そうだ。まずは月を空に戻すことが先だ。このまま月が満ちるのをおとなしく見守るんだ」
その言葉にこびとじいさんも納得してモジャリのそばから離れました。
「でもこのままモジャリの中で月が満ちればどうなるのかしら。今でさえ、こんなに痛がって苦しんでいるのよ」
ヒカリはモジャリの体を心配しました。
「じゃが、これほど大きなものを吐き出すわけにもいかんじゃろう。モジャリには月を産んでもらおう」
物知りフクロウの言うことにヒカリは反対します。
「月を産むってどういうこと? このままおなかの中で月が満ちれば、モジャリより大きくなってしまう。モジャリが破裂してしまうわ」
「月が戻るよう願えと言ったのはおまえじゃろう。願いがかなった結果がこれなんじゃ」
物知りフクロウの言葉にヒカリは反論できません。
確かにヒカリも月が戻ることを願っていたのです。
モジャリをこんな目にあわせているのは自分なのかもしれないとさえ思いました。
月が取り戻せることがわかると、住人たちはほっとして、それぞれ自分たちの家にさっさと帰っていきました。
広場にはヒカリとモジャリの二人きりです。
痛みに苦しむモジャリを前に、ヒカリはどうすることもできません。
モジャリを置き去りにしていった住人たちと、そばにいながら何もできないでいる自分と、一体どちらがひどいのか、ヒカリにはもうわかりません。
ヒカリの中にモジャリを哀れむ気持ちがありながらも、月が戻ってほっとする気持ちもどこかにあるのです。