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顧客の潜在ニーズを見つけるためのインサイト営業の活用

 顧客に潜在化された課題の気付きを与え、ソリューションを提供するインサイト営業が注目されている。メリット、チャレンジとなる点はどこにあるのか、また金融機関の現場でどのように活かすことができるのか。本稿では、インサイト営業の定義、実践的ノウハウを解説した。
                      PwCコンサルティング合同会社 ディレクター 山下 暢之

1.インサイト営業について

(1) 潜在的な課題の気付きを与える営業

 これまで、営業スタイルは顧客のニーズや課題に対応するために、「御用聞き営業」、「プロダクト営業」、「ソリューション営業」と、より適切な課題解決の提案手法へ変化を遂げてきた。そうした中で近年では、「インサイト営業」が注目されてきている。
 インサイト営業とは、顧客(事業会社)の多岐に亘る特に本業に関わる課題や顧客自身も気付いていない潜在的な課題または顕在化しつつある課題を把握し、それに適した解決策を提案していくことである。
 ソリューション営業が顧客の顕在化した課題に対して、ソリューションを提示する形である一方で、インサイト営業は、顧客に対して潜在的な課題の気付きを与え、先手を打つ形でソリューションを提案していくスタイルである。

(2) インサイト営業のメリット・チャレンジ

 インサイト営業は、顧客よりも先に、顧客が気付いていない課題を示し、かつその解決策まで提示するため、そのメリットは、顧客にこのようなアプローチに価値を感じてもらい、事業成長を伴走するパートナーとして認識してもらえ、取引先企業との間で安定的なビジネス機会を得ることが可能となることがあげられる。そのため、通り一辺倒な提案をする企業との差異化が図れることにも繋がる。
 また、チャレンジとしては、インサイト営業をするための育成の時間を確保することや、インサイトを導き出す為の各種データ整備や分析ツールの導入、外部からスキルホルダーや研修コンテンツを調達することが必要となる。
 つまり、体制を整備すること自体が一朝一夕にはいかない点が挙げられる。

(3) インサイト営業が求められる背景~顧客の動向の変化

 ではなぜ今、インサイト営業が求められているのだろうか。顧客を取り巻く環境に目を向けると、円安相場・物価高・物流問題等、が企業活動に影響を及ぼす外的要因の多さや、人材不足、労務課題、販路拡大、事業承継、DX対応、サステナビリティ経営への対応など経営課題が多様化・複雑化してきている。
 2022年に筆者が地域金融機関の取引先である中小企業に対して“経営上の課題や悩みを相談する先はどこか”をインタビューしたところ、信頼感のあるメインバンクが提供する法人向けサイトの情報は参考にしつつも、実務的
な課題や悩みについては付き合いのある税理士、公認会計士や取引先ではない経営者仲間と相談しているとの傾向が得られた。
 では、顧客(取引先)企業がメインバンクに対して期待していることは何だろうか。金融庁による企業アンケート調査の結果、図表1によると、取引先企業がメインバンクに対して「経営上の課題や悩みを聞いてくれる」、「分析結果や評価を伝えてくれる」、「その分析結果や評価に納得感があること」と感じている企業の割合が近年低下傾向になってきている。
 つまり、取引先企業のメインバンクに対して、「経営課題を理解した上で、自社のために納得感のある情報の提供をしてもらいたいが、メインバンクはそれができなくなってきている」と考えていることが分かった。

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