続・下町音楽夜話 0318「愛しの酒ソングス」
今月のラジオのお題が決まった。この時期だからこそ「酒ソング」ときた。酒でも飲んで憂さを晴らしたいところだが、そういう性格でもない。せっかくなので酒に関連する選曲を楽しむとしよう。昔は随分飲んだが、少しはアルコールも出す店を経営していると、自ら飲んでいては仕事にならない。そもそもカラダを壊してからは、かなり控えている。消化器系ではないが、やはり飲む気になれない。
さて「酒ソング」とはいかなるものか。タイトルもしくは歌詞に酒や「drinking」などという単語が出てくれば問題ない。レイナード・スキナードの「Whiskey Rock-A-Roller」やZZ TOPの「Whiskey ‘n Mama」あたりが典型例か。一方で、そこまで分かり易くはないが、酒場が舞台になっているシェリル・クロウの「All I Wanna Do」なども典型的な「酒ソング」だろう。また、カントリー・ロックには酒場でのワンシーン的な歌詞が意外に多く、クラブ・サーキットでライヴをやっている連中の日常であろうことが知れる。なかなかいい曲も多いので選曲が楽しめるあたりだ。
思うに映画の中で、酒場や酒を飲むシーンで使われた曲なども面白いだろう。パッと思い浮かぶのはジョン・トラボルタの「アーバン・カウボーイ」で使われた曲などどれもいけるだろうし、「ミスター・グッドバーを探して」で使われたマリーナ・ショウの曲なども悪くない。しかしこの映画は内容からして「酒ソング」と言うには「クスリ・ソング」という印象が強くなりそうな気もする。他にもいい映画のシーンで登場する「酒ソング」はいくらでもありそうだ。
一方で、短絡的かも知れないが、酒のTVコマーシャルで使われた曲というのも面白い「酒ソング」だ。サントリーのCMは印象的なものが多く、ファンも多いことだろうが、代表はやはりマーク・ゴールデンバーグの「鞄を持った男 L’ HOMME A VALISE」に収録されているサントリー・ローヤルのCM曲群だろう。ランボー篇、ガウディ篇、ファーブル篇の各CMはトラウマに近い感覚で瞼に焼き付いている。
他にもブランデーのCMにマンハッタン・トランスファーが登場したり、サントリー・リザーブのCMではボブ・ジェームスの「マルコ・ポーロ」に合わせてキュートなメイドさんが踊っていた。サントリー・ホワイトではザ・スクエアも聴かれたので、相当好き者が制作に関わっていたのだろう。アルコールは入っていないが、サントリー・マリンクラブという炭酸飲料ではマルコム・マクラレンが使われていたこともある。普通ではなかろう。
面白いところではキリンのロバート・ブラウンのCMで、エディ・ハーディンの「エンドレス・ドリーム」が使われていたりする。エディ・ハーディンはスペンサー・デイヴィス・グループのキーボーダーで、後にはディープ・パープルのロジャー・グローヴァーあたりとも活動を共にしている。「バタフライ・ボール」や「ウィザーズ・コンベンション」でのプレイは彼ならではのものだ。
ニッカウヰスキーも頑張っている。「黒の50 BLACK-50」のCMではロッド・スチュワートがフィーチャーされていた。大枚叩いたことだろう。またモダン・ロマンスという連中の「ファニータ」という曲もこの「BLACK-50」で使われているので、ブランド・イメージづくりに躍起になっていたということなのか。
他にはTaKaRaバービカンのCMではゲイル・レノン「愛のデザイアー」が、懐かしのレーベル「楽京Records」からリリースされている。またアサヒ・スーパードライではジョン・ウォーレン「Teke Me Back」が使われていたということで、手元に7インチ盤があるのだが、残念ながらあまり印象に残っていない。むしろ、面白いのは、ニュー・ヨーク・ドールズのデヴィッド・ヨハンセンがバスター・ポインデクスター名義でリリースしたカリプソ・カヴァー「ホット・ホット・ホット」だ。スリーヴ写真がカクテルを飲んでいる姿というだけだが、これは「酒ソング」認定でよかろう。
個人的にはウィスキーなどの強い酒よりもワイン好きなので、実際の番組ではワイン関連の曲でも選ぶかと考えているが、こうやって書き出してみると面白くなってしまって、まだまだ迷うことになりそうだ。個人的に最も好きな「酒アルバム」はアリス・クーパーの「レース・アンド・ウィスキー」だが、今見ると何ともクサいジャケットが時代を感じさせることもあり、推し切れない。
もっと言えば、トム・ウェイツの曲はタイトルや歌詞に関わらず、全曲「酒ソング」認定済みみたいなものだ。彼ほど酒臭いアーティストもいないだろう。ぬるいビールと冷たい女たちの話題を持ち出すまでもなく、当たり前に登場するだろうから、遠慮しておくか。さて深夜の生放送、お楽しみいただければ幸いです。