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FM84.0MHz Radio City presents "Saramawashi.com -The Vinyl Paradise" 093:ヘンリー・マックロウ特集

さらまわしどっとこむ -The Vinyl Paradise-
第93回(2023年7月7日(金)20時~
(再放送:7月9日(日)19時~)

清澄白河にあるカフェGINGER.TOKYOのオーナー高山聡(あきら)がお届けする音楽番組です。
全曲アナログ・レコードでお届けします。可能な限り7インチ盤で、しかもフルレングスでかけます。
サーフェスノイズにまみれた1時間、ぜひご一緒に。

今週はギタリストのヘンリー・マックロウ特集です。1970年代前半にピークを迎えたというんでしょうか、その時期にやたらといい音源があるギタリストです。主だったところでは初期のジョー・コッカ―、それからジョー・コッカ―のバック・バンドだった連中が作ったグリース・バンドという英国スワンプという、ニッチなジャンルで有名な連中です。また一時ポール・マッカートニーのウィングスのギタリストも務めます。スプーキー・トゥースにもいたり、マリアンヌ・フェイスフルのバックアップだったりもします。さらに、ミュージカルの世界で有名なアンドリュー・ロイド・ウェーバーとティム・ライスのコンビから信望が厚かったのか、「ジーザス・クライスト・スーパースター」や「エヴィータ」で起用されていたりもします。テクニック志向ではありません。もちろん下手ではありません。結構個性的なギタリストです。ソロ・アルバムもいっぱいありますけど、ソロはまあまあです。あまり主役向きの性格ではないようです。60年代の終わりごろ、ジョー・コッカ―のバックでデビューしてきますが、その頃から1970年代前半あたりの音源がいいです。この時期、やたらと輝いていた人です。

1曲目
「Don’t Let Me Be Misunderstood」Joe Cocker (1969)

まずジョー・コッカ―の音源です。1969年のアルバム「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・オブ・マイ・フレンズ」ですが、曲によってはジミー・ペイジが弾いていたりする盤です。ここではまず、ジョー・コッカ―の「悲しき願い」をご紹介しました。 

2曲目
「I Am The Walrus」Spooky Tooth (1970)

スプーキー・トゥースですが、1970年にリリースされた4枚目のスタジオ録音「ザ・ラスト・パフ」というアルバムがあります。創設メンバーのキーボーダー、ゲイリー・ライトとベーシストのグレッグ・リドリーが脱退してしまいまして、穴を埋めたのが、ヘンリー・マックロウ、クリス・ステイントン、アラン・スぺナーという、グリース・バンドの面々でした。ただこの一枚だけです。ヴォーカルのマイク・ハリソンとギターのルーサー・グロヴナー、この人はモット・ザ・フープルではアリエル・ベンダーと名乗った人ですけど、ドラムスのマイク・ケリーはいます。この「ザ・ラスト・パフ」、ビートルズの「アイム・ザ・ウォルラス」とか、エルトン・ジョンの「タンブルウィード・コネクション」に収録されていた「サン・オブ・ユア・ファザー」のカヴァーなんかをやっていて、結構好きな盤でした。ではここではスプーキー・トゥースによるビートルズのカヴァー「アイ・アム・ザ・ウォルラス」をご紹介しました。

3曲目
「My Baby Left Me」The Grease Band (1971)
4曲目
「Mistake No Doubt」The Grease Band (1971)

本日のメイン、グリース・バンドに行きます。まず、評論家筋でやたらと評価が高いファースト・アルバムの冒頭2曲をご紹介しました。このアルバム、ビルボードでは190位どまりなんです。ジョー・コッカ―のバック・バンドとして69年8月のウッドストック・フェスティヴァルに出演して、もの凄く評価は高かったのですが、ここでは評価されません。ジョー・コッカ―はその後、レオン・ラッセルと組んで「マッド・ドッグス・アンド・イングリッシュメン」としてアメリカ・ツアーに出でしまいます。こちらは評価されます。でも、ヘンリー・マックロウは同行しません。おそらく、この人、ツアーとかあまり好きではないんだと思います。家に居たい人のような気がします。ともあれ、英国からアメリカ南部への憧憬を音にしたようなスワンピーな連中です。英国と言っても、ヘンリー・マックロウはノース・アイルランドの人ですけど、とにかく英国スワンプというニッチな存在ですが、要するにデラニー&ボニーに合流したエリック・クラプトンやジョージ・ハリスンあたりと同じ感覚で捉えてよろしいかと思います。

5曲目
「Let It Be Gone」The Grease Band (1971)
6曲目
「Laugh At The Judge」The Grease Band (1971)

この人たち、リズムの緩さも音質もスワンプと言われて成程といったところですが、意外なところで、リフのメロディや音に結構な個性があると思います。ヘンリー・マックロウは、ギターを弾くとき、開放弦をミュートしない人なんだと思うんですけど、通奏低音のような音が鳴っているんです。バグパイプとかジャミロクワイで有名になったディジェリドゥとかをイメージして頂ければと思います。

7曲目
「Jessie James」The Grease Band (1971)

先日、ライ・クーダー特集の時にもお話ししましたが、アメリカ人は義賊的な盗賊、ジェシー・ジェイムスが大好きです。単にアメリカ南部に対する憧憬を音で表すというのは、もちろんコピーすれば誰でもできなくはないと思いますが、アメリカ人の独特のユーモアとか、宗教観にもとづくコンサバティヴなところがあったりとか、義賊的なものが好きだったりする感覚みたいな部分は、案外国民性を理解する上でも大事なのかなと思ったりもするんです。ファースト・アルバムから最後は「ジェシー・ジェイムス」をご紹介しました。

8曲目
「New Morning」The Grease Band (1975)
9曲目
「Pont Ardawe Hop」The Grease Band (1975)

1975年にセカンド・アルバムがリリースされますが、その実態は1970年から71年頃に録音されたファースト・アルバムのアウトテイクです。75年にはとうに解散しております。キーボードのクリス・ステイントンはザ・フーの「四重人格」とか「トミー」でキーボードを弾いていたり、イアン・ハンターのバックで弾いていたり、70年代終盤から80年代はエリッククラプトン・バンドです。90年代以降は故郷が同じよしみか、ジョー・コッカ―のバックアップに戻ります。ベースのアラン・スペナーとリズムギターのニール・ハバートは白人ソウル・バンドと呼ばれたココモを立ち上げることになります。ドラムスのブルース・ロウランドはフェアポート・コンヴェンションです。そしてヘンリー・マックロウはポール・マッカートニーのウィングスからマリアンヌ・フェイスフルやらソロ活動へといった案配です。みんなそれなりに面白いことをやっている連中です。

このセカンド・アルバム、意外なほどクオリティが高く、いい曲が収録されています。ただ思うに、ファーストの収録曲と、曲のキャラが被っているかもというものが多いようです。おそらくそんな理由で収録されなかったなのではと思います。

10曲目
「Give Ireland Back To The Irish」Paul McCartney & Wings (1972)

11曲目
「My Love」Paul McCartney & Wings (1973)

ヘンリー・マックロウは、ノース・アイルランドでは国民的なヒーローとして扱われるギタリストです。何故なら、ポール・マッカートニーのウィングスに加入して、いきなり「アイルランドに平和を Give Ireland Back To The Irish」という曲をやったからということが大きな理由でもあるかと思います。この曲、英国内では放送禁止です。まああまりに直截的な歌詞です。「アイルランドの土地をアイルランド人に返せ」と連呼するわけです。これだけハッキリ政治的な批判をしていてもポール・マッカートニーはサーの称号をもらっているんですから、イギリスも面白い国ですけど。ジョン・レノンからは「やり方が幼稚だ」と言われるわけですが、ジョン・レノンも支持は表明しているんですよね。この人たちはその辺が面白いです。

ポール・マッカートニーはこの後すぐに「ハイ・ハイ・ハイ」もBBCでは放送禁止になります。歌詞が卑猥だからということですけど、まあこの時期、ポールはやたらとマスコミから叩かれていた時代です。「マイ・ラヴ」という曲は奥さんのリンダさんに捧げられたラヴ・バラードですが、これですら「あまりにパーソナルな内容だ」といって評価されないわけです。でも後々、ヘンリー・マックロウのギター・ソロも絶品ですし、「やっぱり名曲だ」という方に評価は変わって行きます。ここでは「アイルランドに平和を」と「マイ・ラヴ」をご紹介しました。

12曲目
「Helen Wheels」Paul McCartney & Wings (1973)

本日ラストの曲ですが、正直な話、他にもっと優先して特集すべきギタリストもいると思います。スティーヴィー・レイ・ヴォーンもまだやっておりませんし、ジョニー・ウィンターとかのブルースメンとかもまだやっておりません。でもあの辺の有名な人たちはラジオでかかる機会がまだあるかと思われます。でもヘンリー・マックロウを特集するのはこの番組くらいしかないかなと思います。とにかくザ・グリース・バンドのファースト・アルバムは凄くいい音源ですから、スルーするのは勿体ないです。そんなわけで、ラストはやはりポール・マッカートニー&ウィングスで「ヘレン・ホイールズ」をご紹介しました。ヘンリー・マックロウの音だということが納得いただける曲かと思います。

次回は南部逍遥ブルース・ロック特集です。お楽しみに。
番組へのご意見やお便りをください。
voice@fm840.jp

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