7インチ盤専門店雑記796「アヴィシャイ・コーエンを聴く」
よよかちゃんの登場以来、ドラマーをフツーに評価できなくなってしまったんですけど、久々にドラマーでおやっと思える人にめぐり逢いました。しかもまた女性です。ロニ・カスピ、アヴィシャイ・コーエン・トリオのドラマーです。
正直なところ、もう少々のドラマーでは驚かないと思っておりましたけどねぇ…。やっぱり世界は広いというか、上手い人はいますね。上手いと言っても、テクニック的に彼女よりも上手いドラマーはいくらでもいそうです。でもアヴィシャイ・コーエンのトリオで叩くドラマーとしては最適な人を見つけましたねぇ…。
何はともあれ、スネアの使い方がいいんです。感情移入の度合いが高いアヴィシャイ・コーエンのベースを受けて、これでもかと手数多く叩きまくりますが、結構ポーカーフェイスなところがよくて、その割にドラムスの音圧はしっかり上がって行くので、リスナーはいつの間にか没入して興奮状態に持ち込まれてしまいます。
世のドラマーさんたちがどう思うか分かりませんが、ここ10年ほどの話をすると、現代ニュー・オリンズ系のドラマー、スタントン・ムーアが出てきて人気になって、以前よりもビッグ・ビートがドラムスの叩き方の基本になってきていると思うんです。
ビッグ・ビートという言葉は2つあって、テクノやエレクトロニカの方のループを多用するブレイクビーツのところで使われる言葉と、昔ながらのデイヴ・バーソロミューだのファッツ・ドミノといったアーティストを例にニュー・オリンズあたりで言われる、スネアをハードヒットするスタイルのビッグ・ビートです。当然ながら、私は後者の方で使っております。
単にハード・ヒッターが目につくだけかもしれませんが、私がよく聴いている南部のジャム・バンド系やクラシック・スタイルのロックをやっている連中は、ビッグ・ビート・スタイルのドラマーが多くなっているように思うのですよ。やはりスタントン・ムーアがイチバン分かり易い例なのですが、とにかくスネアをぶっ叩くわけです。アクセントがもの凄く強いので、リスナーはリズムがとり易く、ノリ易いと思われます。とにかく聴いていて、気持ち良いです。スコン、スコン、スネアを打ち込んでくるわけで、一緒に演奏している連中は煽られたようになっているのではないでしょうか。
そこでロニ・カスピなんですが、それほどビッグ・ビートといった叩き方ではなく、手数がエラク多い人なのですが、スネアの音がビッグ・ビートの連中と同じく強いわけなんです。アタックが強いわりに手数が多い、しかもポーカーフェイスでしれっと叩いている、…その見た目はかなりインパクトがあるんですよねぇ…。結局ここ10年ほどの叩き方だとは思うんです。でもかなり個性的なんです。
加えてこのトリオはモスコヴィッチ君のピアノも極上ですし、アヴィシャイ・コーエンの安定感増し増しの図太いベースもいいですから、現代のジャズ・トリオではナンバーワンと言ってもよろしいのではないでしょうか。個人的には、アヴィシャイ・コーエンが書く曲も好きですしね。何なら、アンコールで歌う彼の歌声もいい味出しているわけですよ。しばらくは目が離せない連中です。母国の惨状に心を痛めていると思いますが、頑張って欲しいものです。