7インチ盤専門店雑記713「Lipps Inc.」
lip syncではなくlipps inc.、このネーミングだけでも面白いヤツと思ってしまいます。ユニット名が「クチパク」にかけてあるわけで、お前誰?となりますよね…。こちらはスティーヴン・グリーンバーグという人物が仕掛人です。ヴォーカル兼サックスのシンシア・ジョンソンという女性と組んで飛ばした見事な一発屋ヒットです。
1980年前後、70年代的なロックが古臭いものとされた時期、テクノやニューウェーブが新しさの象徴だったかもしれませんが、こういったシンセ・ポップで踊るという行為が果たして新しかったのか、…おしゃれだったのか。未だに納得しておりませんけどね。
昨日アップしたMとリップス・インク、テクノとディスコを融合したようなダンサブルなシンセ・ポップの代表曲ですよね。時期的にも近かったので、お客様からのリクエストがどちらかに入ったときは両方を取り出してきます。ヘタすると勘違いされていることもあるからという理由もありますが、大抵話の流れから両方聴くことになるんです。「好きか?」と訊かれれば「嫌いではない」という程度に返します。こういったメロディが染み付くようなポップな曲は好きなんですけどね。どうしても楽器の音でない部分が100%好きと言えないところでしょう。
アナログに拘って聴く理由はむしろ見出せないものですが、この2曲はやはり7インチ・シングルで必ずあるようにしておきます。時代を象徴するヒット曲はやはりその当時の主要メディアで聴きたいと思うからです。
さてリップス・インクも一発屋は一発屋ですが、面白いシングルがもう一枚あります。エースの「ハウ・ロング」のカヴァーなんですが、これ、大好きな曲なんです。ポール・キャラックが書いた70年代を代表する名バラードです。
それにしてもシンセ・ポップ・グループがこういった曲をカヴァーしますか…。方向性としてどうなんでしょうね。面白いカヴァーって、世の中にいっぱいあるわけですが、オリジナルに対するリスペクトを感じたり、こういう解釈はいかがかという自己のセンスをかけた挑戦であったり、名カヴァーはそれなりに存在価値というものを湛えているわけです。このカヴァーはどうなんでしょうね。
リップス・インクは一発屋という認識で、しかも存在したのはホンの数年で、シンシアさんが脱退したところで活動を止めてしまいます。グリーンバーグ氏はどうしたかというと、デザイン・スタジオを立ち上げてビジュアル・デザインの方に行ってしまうんです。ミュージカルに楽曲提供したという情報もありますが、軸足は音楽側ではなくて、デザイナーの方に移してしまうんですね。
思うに基本姿勢がミュージシャンじゃない人なんですね。曲が書けるし、面白いからシンセ・ポップやっている、売れたからもう少しやってみる、好きな曲をカヴァーしちゃおうかな…、といった印象なんですよねぇ…。まあいいんですけど、この時代、結構こういう人っていたと思うんです。ニューウェーブに擬態してデビューしてきたスティングやジョー・ジャクソンなんかも、ブームに乗って名前を売ってから自分の好きなことをやってますよね。…才能がある人は何をやっても上手く行くんですかねぇ。羨ましいですね。