7インチ盤専門店雑記303「時間が…」
1990年代前半だと思います。モダン・ジャズを聴き始めた頃、ブルーノートの輸入盤CDが990円で売られていたんです。ワゴンセールのような売り方でした。まだブルーノートの解説書などを片手に、「とりあえず1500番台と4000番台あたりを聴いてみよう」としていた時期です。その10年ほど前にソニー・ロリンズの「サキコロ」だけは散々聴いております。そしてフュージョンに関しては、相当聴きこんでいたとは思います。そんな順番でやっとモダン・ジャズでも聴いてみるかとなったように記憶しております。直前はブルースの沼に1~2年ハマっておりました。ようやく他の音楽を聴く気持ちが出てきた頃です。
確か製品化されたばかりのMDプレイヤーが使ってみたくて、何か目新しいものでも聴いてみるかとなったタイミングだったと思います。990円のCD、まず1500番台の目ぼしいところを10枚ほど購入しまして、翌日にはまた買いに走り、もう10数枚購入したんです。2~3カ月でブルーノートは100枚以上のCDを聴いたと思います。何が背中を押したかというと、アート・ブレイキーの有名どころ、ジャズ・メッセンジャーズのボヘミアやアート・ブレイキー・クインテットのバードランドあたりでした。それから、リー・モーガンにハマり、クリフォード・ブラウンにハマったのでした。
具体的にはバードランドの1と2の両方に収録されている曲「Quicksilver」にヤラレたんです。ロック好きがジャズを聴き始めるのには最適な曲ではないでしょうか。アグレッシヴなホレス・シルヴァーのピアノが煽りまくる様はなかなかに面白い世界があるものだと思いました。当時は楽器も少しはやっていたので、今とは聴き方が違っていたかもしれませんが、とにかく2~3枚聴いてはバードランドに戻り、また2~3枚聴いてといった具合で、他の盤とは比較にならないほど、聴きこみました。そして、サキコロも聴き直しつつ、ブルーノートのロリンズも随分聴きこんでおりました。
ただその時点では、トランペットがクリフォード・ブラウンだということにはあまり注意が行ってなかったんです。エマーシーの廉価盤CDが発売されたときにまとめて購入して、「あれ、好きかも?」となってからは、一気にクリフォード・ブラウン全音源制覇に動きました。そして、そこでブルーノートにも参加盤があることを知るわけです。アート・ブレイキーのバードランドにも参加していることに気がついた瞬間には、「クイックシルヴァー」が脳内再生されておりました。「…アレか!」というヤツです。もう人脈が繋がり始めると面白くて、一気に他のレーベルやマックス・ローチ関連音源にまで興味が広がりました。
如何せん、書物から得た知識がベースです。クリフォード・ブラウンが若くして亡くなっているということは分かっているのですが、いろいろ聴き漁っていくうちに、音源が少ないことに「そうか、そうか…」と瞬間悲しくなるようなことを繰り返してしまったんですね。そもそも、最初に購入したクリフォード・ブラウン名義のアルバムがブルーノート1526番「クリフォード・ブラウン・メモリアル・アルバム」なんですから。
後々、後回しになっていた10インチ盤の5000番台にもいくつか音源があることを知ったときは驚きました。教科書の記述が薄かったり、漏れていたりすると、なかなか探し出せるものではありません。まだPCもインターネットもない時代ですから、ムック本などが主要な情報源ですからね。
そんなことが懐かしい記憶として、芋蔓式に蘇ってくるんですけど、とっかえひっかえ、クリフォード・ブラウンを聴いていて、「おや、5032番のドラムスはアート・ブレイキーでしたか…」などといった記憶を補強するような情報を目にし、妙にニヤニヤ…ニヤニヤ。「ジジ・グライスもおるやん。5000番台聴き直すか…」と、なっておりまして、「お前にそんな時間があるんか?」「あるわけなかろ…。時間は作るもんや…」と自問自答しながら、スケジューラーを横目に、目一杯のはずの今週、どう走り回る算段を組み替えるかなどと危険な考えを巡らせております。