7インチ盤専門店雑記738「ダイアナ・クラール」
クセの強いジンジャーのスタッフ連中で、イチバン付き合いが長くなってしまったのが声優のM君です。有名映画いろいろで吹き替えをやっている、Wikipediaのページもある、知る人ぞ知る人です。音楽に関しては実にまともで、ビリー・ジョエルあたりがお好きだったりします。ジンジャーに出入りしていて、ビリー・ジョエルとか言うと、えっ?という顔をされたりするので、おそらくあまり口にしない名前かもしれません。常連客も病気を通り越している人々が集まってくる店ですし、オーナーは言うに及ばずでして、ジンジャーの良心みたいな、実にまともな人というわけです。
そのM君が最近、ダイアナ・クラールにハマっているということで、「そらきた、ジンジャーの良心」とほくそ笑んでおります。…実にまともでしょう?オーナー高山は以前は女性ヴォーカルが好きで、ノラ・ジョーンズなみにダイアナ・クラールも聴いていた時期もありました。でもあまりに良くて、もう自分が聴く必要もないなという判断のもと、何枚かあったLPも自宅に持って帰ってしまいました。まあ、ノラ・ジョーンズ同様、ダイアナ・クラールが静かに流れているカフェ、…いいですよね。
ここのところ、毎週土曜日にダイアナ・クラールが流れているもので、「ああ、こういうのを流せばジンジャーもまともだな」などと感慨に耽っております。まあジェネシスだのピンク・フロイドのライヴあたりが最近は多いもので…。ディナータイムは案外いい雰囲気だと言っても説得力はありませんね…。
カミさんが洗い物をしながら我々の会話を聞いて「え?女性なの?」ということを言い出しまして、…確かに男性の声に聴こえなくもないかもと思いつつ、中性的な声って昔から魅力的なんだなと考えてみたり、…チェット・ベイカーの話ですけどね。ハスキー・ヴォイスの低音でピアノに寄り添うように訥々と歌う音源、いいですね。
M君が強く反応したのが「カリフォルニア・ドリーミング」のカヴァーでして、以前に出演した作品で使われていた思い出の曲のようです。また「デスペラード」も反応しておりましたね。これは納得です。実にいい選曲です。…当たり前過ぎる気もしますけどね。…正直なところ、「デスペラード」をカヴァーして、リスナーを納得させられないのはまずいでしょう。この人の場合、ジャズ・スタンダードのような曲よりも、こういったポピュラー・ミュージックのスタンダード的な選曲が個性なんでしょうね。…そういうところ、選曲がまとも過ぎて聴かなくなってしまったような気もします。
ダイアナ・クラールが歌う「ウォーク・オン・バイ」がありまして、実に自然で素晴らしいカヴァーです。この選曲は他のポピュラー・スタンダードと少々解釈が違って、オリジナル以上に素晴らしいと思うわけです。これは間違いなく選曲の勝利です。ディオンヌ・ワーウィックの歌は少し声を張り上げ過ぎていて、聴くたびに疲れるんですけど、ダイアナ・クラール版は曲に合った適正なヴォーカルです。
ダイアナ・クラールのピアノを評価する向きもあるようですが、私は全く耳に入ってきません。どうしてもヴォーカルを聴いてしまいます。ラウンジ・ミュージックのように聴こえてしまう要因の一つがピアノかもしれませんね。もう15%ほどジャズ寄りの演奏をしてくれたら、また聴きたくなるかも…などと考えております。…M君には心から感謝しておりますよ。
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