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7インチ盤専門店雑記739「愛は面影の中に」

ロバータ・フラックの「愛は面影の中に The First Time Ever I Saw Your Face」、子どもの頃から大好きな曲だったのですが、なんでか謎だらけで曖昧な記憶とともに放置してしまったんです。もちろんレコードも買いましたし、CDも買いましたから、どこかのタイミングで謎が解けてもよかったはずなのですが、たまたまなのでしょう。

この曲1969年6月リリースのファースト・アルバム収録曲でした。これをクリント・イーストウッドが自分の初監督作品、1971年公開の「恐怖のメロディー Play Misty For Me」で起用したことから多くの人々が知るに至り、結局1972年に6週連続ナンバーワン・ヒットになったんだそうです。だからリリースとヒットがズレているんですね。これがまず一つ目の謎だったんです。

次に、自分は大昔に読んだ音楽誌の記事か何かで、この曲は死んでしまった飼い猫のことを歌ったものという誤情報を入れてしまったんです。…そもそも、この曲はカヴァーなんですよ。英国のシンガー・ソングライター、イワン・マッコールという人物が1957年に書いたもので、60年代にいくつかのフォークグループにカヴァーされております。

どうやら真相は、いわゆるラヴソングなんですけど、ロバータ・フラックはファースト・アルバムでこの曲を録音する時に、感情移入するために死んでしまった猫のことを思いながら歌ったということのようなんです。これでカヴァーソングの謎の方も解けました。…というか、なんで作者クレジットに気がつかなかったか、我ながら呆れておりますが、それだけロバータ・フラック色に染まったカヴァーだったということなのでしょう。

実はさらに不思議に思っていたことがあって、遅いヴァージョンと速いヴァージョンがあるように思い込んでおりましたが、どうやら速いヴァージョンは存在しないと思われます。プロデューサーにもう少し速くないと売れないと言われつつ、これでいいと思ったロバータ・フラックは、そのままのテンポで押し切ったためにシングル・カットには至らなかったわけです。クリント・イーストウッドから楽曲使用のオファーがあったときに、テンポを上げて録り直すかきいたところ、そのままでいいと言われたという逸話があるんですね。結局オリジナルのテンポのまま大ヒットに至ったわけですから、プロデューサーよりも、クリント・イーストウッドの感性が正しかったわけなんですね。

ちなみに7インチ盤専門店的な謎も解けました。つまりこの曲のオリジナル・シングルは1972年であって、1969年盤は存在しないわけなんですね。1972年盤はレアながらも何度か手に入れたことがあったのですが、再発盤だと思って、お安く売ってしまいましたよ。全く知識勝負なのかも知れませんが、シングル・カットのタイミングまで完璧に把握するのは至難の業ですね。まあ、今回、いろいろ謎が解けてよかったです。






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