7インチ盤専門店雑記729「Cloud About Mercury」
1987年にECMからデヴィッド・トーンの「Cloud About Mercury」というアルバムがリリースされております。何をイメージするのかよく分からないジャケットですが、メンバーがシンプルに記載されております。マーク・アイシャム、トニー・レヴィン、ビル・ブルフォードです。このアルバムを入手したのは、キング・クリムゾンにハマりまくっていた2000年前後だったでしょうか。既にブルフォード・レヴィン・アッパー・エクストリミティーズ(B.L.U.E.)にぞっこんだった時期です。
そんなわけで、これはひょっとしてB.L.U.E.のプロタイプ的な内容なのかと期待してしまったのですが、デヴィッド・トーンのリーダー・アルバムですから、だいぶテイストが違っておりました。デヴィッド・トーンはテリー・ボジオと一緒にやっているPollytownで知っていたもので、ちょいと期待しすぎでしたかね…。
それでもこの盤、恐ろしく良音です。ECMですから、ある程度は期待できますが、それでもECMで想像するレベル以上だとは思います。87年という時期のアナログ・サウンドがどれほどのレべルに達していたかですが、やはりこの辺の良音を極めているような盤を聴くと、もの凄いレべルですね。2010年代のアナログも当然ながら相当のレベルだとは思いますが、ようやく87年頃のレベルに戻ってきたかというようにも思えます。2010年代は結局デフォルトで重量盤ですから、ノイズ・レベルで考えれば優位なはずなんですけどね。ペラペラの80年代末のアナログは、スタビライザーで押さえつけるなどすれば盤の軽さも何とかなりますし、凄いレベルだなぁと思います。
さて、結局ビル・ブルフォードとトニー・レヴィンがただ者ではないわけですね。アルバムのリーダーがリズム隊の二人に移ったことで、こうも違う物ができてしまいますかね。この二人もあいつなら行けるだろうということでデヴィッド・トーンには声をかけているとは思います。トランペットに関してはマーク・アイシャムであれ、クリス・ボッティであれ、おそらくあまり変わらないんだろうと思います。何なんですかね、あの高みに上り詰めたような緊張感と猛烈な演奏クオリティ、36分の35拍子だかなんだか知りませんけど、ソリューションの瞬間のあの快感、もう恐ろしくハイ・レベルなことをしれっとやってみせて、同時並行でやっているのがキング・クリムゾンなわけですからね。凄いですよ、ホント。
恐らく音だけでは伝わらないのでしょうが、98年4月の赤坂ブリッツで観たライヴで確信できたことなんです。ビル・ブルフォードとトニー・レヴィンはそれなりの集中力はいつものことなのでしょう。デヴィッド・トーンとクリス・ボッティはもう必死というか緊張すらしているようで、終演時の安堵感がちょっと笑えるほどだったんです。まあ、そもそも第1部がキング・クリムゾンのプロジェクト2で第2部がB.L.U.E.という時点でただ事ではない感が会場に満ちていたんですけどね。あれはあの場にいた人間でないと判らないでしょうけど、もの凄い経験をさせていただきましたよ、ホント。