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新月/夢(無)言集

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ラヴ

ラヴ

 私の書く小説を自分なりに分析したときに、必ずそこには都市の影がある。
 私は都市部に近い場所に住んでおり、その住む場所も高層マンションが並ぶ大きな街である。ここには物心つく前から住んでいるため、おそらく都市のビジョンはこの街での生活が大きく影響しているのだろう。

 私は都市というものが好きである。とくに夜の景色ほど好きなものはない。都市は巨大で、堅牢で、そして無機質だ。人が生きていく場所である

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回転、変移、営みを

回転、変移、営みを

 春は晴れた日が好きだ。
 私は四季の中で春の青空が一番綺麗だと思っている。夏のように真っ青なわけでもなく、秋のように何か物足りない薄い青でもなく、冬のように灰色がかった寂しい青でもない。春には春だけの青があると思っている。そんな青空を背景に桜を見ると、そのお陰で桜がもっと綺麗に見える。それらを見ていると、どこか幸せな気分になる。
 春の息吹は優しい。頬を撫でていく風は、ときに花の香を纏い、ときに

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砂漠の井戸よ、美は我が心を飾るか?

砂漠の井戸よ、美は我が心を飾るか?

 皮肉なもんさ。俺が長く求めていた答えは、俺が何度も歩んだ道端に落ちてた。今まで何とも思わなかった一文の中に、俺がずっと忘れていた物があった。

 住み慣れたこの世界だって、ふとした時に新しい美しさに気づくことがある。皮肉なんかじゃないさ。お前さんがその事実に気付くのは、今であるべきだったんだろうよ。

あの日の恋心は幻覚か狂気か

あの日の恋心は幻覚か狂気か

 私は春も半ばの頃、春という季節に一度だけ恋をしたことがある。この「恋心」こそが論点である。

 まず恋心が何であるかを定めねば、あの日の恋心が幻覚か狂気かを図ることはできない。
 恋心とは、恋をする心。では、恋とは何か。

 古今東西様々な本があり、恋や愛を題として取り扱ったものも多々存在する。しかし、いまだかつて恋や愛について過不足ない説明をし、万人を頷かせた本があるという評判は聞いたことがな

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「人々の雑踏」、心の荒廃も歩みを止めず

「人々の雑踏」、心の荒廃も歩みを止めず

 誰も愛せず、また誰からも愛されぬのならば、私の生きる意味は一体どこにあるというのだろうか。今現在、世間一般で美しいとされる人間を見ても、かつての心の躍動が再び私を歓喜させることはない。いつからか、私は女というものを視界に入れることを拒むようになった。例え会話をするとなっても、女の方を見ることはない。どこか遠く、あるいは近くに目をやって会話するのだ。何故だ?喪失は実のところ、あの出来事の遥か前に経

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