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新月/夢(無)言集

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回転、変移、営みを

回転、変移、営みを

 春は晴れた日が好きだ。
 私は四季の中で春の青空が一番綺麗だと思っている。夏のように真っ青なわけでもなく、秋のように何か物足りない薄い青でもなく、冬のように灰色がかった寂しい青でもない。春には春だけの青があると思っている。そんな青空を背景に桜を見ると、そのお陰で桜がもっと綺麗に見える。それらを見ていると、どこか幸せな気分になる。
 春の息吹は優しい。頬を撫でていく風は、ときに花の香を纏い、ときに

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砂漠の井戸よ、美は我が心を飾るか?

砂漠の井戸よ、美は我が心を飾るか?

 皮肉なもんさ。俺が長く求めていた答えは、俺が何度も歩んだ道端に落ちてた。今まで何とも思わなかった一文の中に、俺がずっと忘れていた物があった。

 住み慣れたこの世界だって、ふとした時に新しい美しさに気づくことがある。皮肉なんかじゃないさ。お前さんがその事実に気付くのは、今であるべきだったんだろうよ。

あの日の恋心は幻覚か狂気か

あの日の恋心は幻覚か狂気か

 私は春も半ばの頃、春という季節に一度だけ恋をしたことがある。この「恋心」こそが論点である。

 まず恋心が何であるかを定めねば、あの日の恋心が幻覚か狂気かを図ることはできない。
 恋心とは、恋をする心。では、恋とは何か。

 古今東西様々な本があり、恋や愛を題として取り扱ったものも多々存在する。しかし、いまだかつて恋や愛について過不足ない説明をし、万人を頷かせた本があるという評判は聞いたことがな

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「人々の雑踏」、心の荒廃も歩みを止めず

「人々の雑踏」、心の荒廃も歩みを止めず

 誰も愛せず、また誰からも愛されぬのならば、私の生きる意味は一体どこにあるというのだろうか。今現在、世間一般で美しいとされる人間を見ても、かつての心の躍動が再び私を歓喜させることはない。いつからか、私は女というものを視界に入れることを拒むようになった。例え会話をするとなっても、女の方を見ることはない。どこか遠く、あるいは近くに目をやって会話するのだ。何故だ?喪失は実のところ、あの出来事の遥か前に経

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