KTXで釜山⇔ソウル 日帰りで旧知のご夫妻とランチを楽しむ。(釜山旅二日目)
一月三日
夫が LINE で旧知の韓国人Y氏に正月の挨拶とともに「釜山に行きます」と一言添えた。
「釜山にいらっしゃるのなら、せっかくだからソウルまでいらっしゃいませんか?いっしょにランチをしましょう」という返事が返ってきた。
じゃあ、ソウルまで日帰りで行こうとスマホでKTXの時刻表をチェック、すると釜山⇔ソウルは最速で二時間少し、列車数も一時間に四、五本、夜遅くまで運行している。
ではソウルに行こう。
十日の正午前にソウルに到着するKTXで釜山からソウルへ向かった。
釜山 8:40 発 ソウル 11:24 着 KTXに乗車
モニター画面もあり、中々快適な車中旅になりそうだ。
新慶州、蔚山を通り列車は北上、車内の空気が少しひんやりしてくる。
車窓からの風景が雪景色に変わる。
車内のモニター画面では前日の韓国の積雪のニュースが流れている。
そりゃ冷え込むはずだ。
「雪マークじゃなくて晴天の予報だけどソウルも雪、積もっているかしら。しっかり防寒対策してきたから大丈夫だけどね」
ソウルが近づくと道路の積雪はない様子。
「あっ!漢江だ!汝矣島も見える!」と夫。
「わぁ、懐かしいなぁ、漢江はいいなぁ」
正午に待ち合わせのKTX出口でY氏ご夫妻と出会い、懐かしさと再会の喜びで会話が弾む。
私はご夫妻(ご家族)の東京駐在中に私たち家族で都内のご自宅に招待され、夫人の手料理をご馳走になって以来、実に三十数年ぶりにお会いした。
手の込んだ韓国料理のフルコースの美味しかったこと!
時の空白なんて無関係で、次々と話題は尽きない。
私たちより少し年上なのに今もなお知識欲の旺盛なこと!
高麗大学卒業後、早稲田大学に留学されたY氏と夫人の日本語は今も完璧。
「徳寿宮のすぐそばのレストランなので、歩いて行きましょう!」
「いいですね」
ところどころまだ積雪、平日なのに人出が多いので祝日なのかと思ったら今は冬休みで入試などは既に終わっているそうだ。
「今、韓国ではおまかせという日本語が流行っているんですよ」
「えっ?日本料理とかのおまかせ料理のおまかせですか?」
「そう、それでこの日本語をどうにかして韓国語に置き換えたいらしくていろいろ探しているようですが中々・・・」
なるほど。
「ちなみに今ソウルで人気の日本料理はなんですか?」
「トンカツ!どこでもトンカツのお店は大人気ですよ」とご夫妻即答、確かに看板があるある!
(韓国語には日本語の「ツ」に当たるハングル表記がないため、ハングル表記ではトンカスという読み方になる)
ソウル市庁を右に見て徳寿宮を左手に見ながら進む。
徳寿宮そばの小道にロマネスク式聖堂。
聖公会ソウル聖堂の隣が予約してくださったレストラン「ダルゲビ」
私は韓国料理で一番好きなのは宮中料理か韓定食で、ソウルでも慶州でも何軒もそういうお店を訪れているけれど、ここは知らなかった。
「ここは外交官や政財界の若い人たちがよく利用しているんですよ」
「ああ、個室だからプライバシーも保たれますしね」
まずビールで乾杯!
ああ、これです。この見目麗しき料理!
これこそやさしい味わいというのだろう。
「ああ、おいしい!このムルキムチ、発酵具合がちょうどいいですね」
ジョン二種
鮑の焼物
牛薄切り肉の炭火焼きと新鮮サラダ
季節のスープとごはん
季節の果物
美しい食事と会話。
韓国の教育事情や少子化問題、女性の社会的躍進(外交官は40%が女性、といった例など)とそれが社会問題となっている背景、Y氏はリタイアされた後、昨年夏まで台湾留学されていて、台湾の興味深い文化論、台湾と韓国における反日意識の違いについてなど、話題は尽きない。
一旦話を切り上げて店を出る。
ほんとうにごちそうさまでした。
ちょうど徳寿宮の王宮守門将交代儀式が行われる時間らしく、守門軍に出会うという幸運。
それから徳寿宮トルダムキルを散策。
徳寿宮の石垣に沿って続いている道(路)をトルダムキルと言い、四季を通じて美しい景観が広がる散歩道は私も大好きな場所で、特に秋の銀杏並木と徳寿宮やレンガ作りの建物が醸し出す雰囲気が好きだ。
「今日は私の母校を案内したいのです」と夫人。
夫人が梨花女子大出身なのは知っていたが中学・高校も梨花だったことは知らなかった。
梨花女子高等普通学校は1886年、宣教師メアリー・スクラントンにより創設された朝鮮・韓国最初の女学校で、歴史のある名門高だ。
変遷を経て、夫人のころは中学校・高校もあったそうだ。
「だったらエスカレーター式に高校、大学に進学できたのですか?」
「いえいえ、とんでもない。高校に入るときも大学に入るときも一般入試と同じように難しい試験がありましたよ。ほんとに一生懸命勉強しました。梨花女子中学校に合格したときは母がとても喜んでくれました」と夫人。
藤棚の藤が満開になるころ、創立記念日の祝典が開催されると必ず出席して、級友たちとの親交を深めるそうだ。
校内には三・一独立運動(1919年)の活動家で、給費生として入学した柳寛順の記念館があり、銅像がある。
「お気に入りのカフェがあるのでコーヒーを飲みましょう」
教会が経営するカフェだそうだ。
まだまだ話は盛り上がる。
「あっ、もう五時になる。それではそろそろ出ましょうか」と夫。
京郷新聞社のところで徳寿宮トルダムキルは終わる。
「今日はほんとうに楽しかったです。今度はまた日本でお会いしましょう」
Y氏ご夫妻は地下鉄駅へ、私たちは光化門方面へと別れる。
ソウル駅 18:50 発の釜山行きのKTXのチケットを買い、車内用のビールとおつまみになる総菜などを買って乗車。
ああ、ポカポカあったかいなぁ。
心地いいなぁ。
そう思いながら夜の景色を眺めていると、21:32 釜山駅にKTXは着いた。
「ソウルに日帰りで行って、ほんとによかった。Y氏ご夫妻と会えてたくさん話もできて、ああ、最高だったね」
二日目の夜は更ける。