心の緩み、、、心の隙
前回より
“悪いんだけど家まで送って欲しいの、、、”
社長にそう言われたら仕方ありません、、、
その日も普段通り車で出勤していた社長でしたが、僕は特に気にもせず
自宅マンションまで送ることなったのです。
車で10分程度の道のり、、、ほんの少し遠回りして帰ればいいだけです。
でも行き先は違いました。
送った先は都心のど真ん中、誰もが知る歴史あるホテルでした。
状況は込み入っていた、、、
その時の社長の様子がどうだったのか、、、
思い返せば、やっぱり少し変だったのです。
和かでお喋り好きで、明るくてサバけた普段の社長ではなかったと思います。
ホテルのロビーラウンジでの話です。
“もう怖くてマンションに居られない、しばらくこのホテルに避難する、、、”
いきなりそんな事を言ったのです。
実は”あの事件”の後もM氏の執拗な嫌がらせは続いていたのです。
「よりを戻さないなら手切金をよこせ、そしたら縁を切ってやる」
真夜中の携帯電話、、、
着信を拒否をすれば今度は深夜遅くにマンションのオートロックのチャイムを
しつこく鳴らすようになったと、、、
M氏の嫌がらせは更にエスカレートしていたのでした。
それで更に社長は僕にこう言いました。
"仕事は全て任せる、あなたの判断に全て任せる、、、”
突然のことでした。
“怖くて仕事どころじゃないの、、、”
とにかく社長は怯えていたのです。
対して僕は言いました。
「しばらく実家に避難するのもいいのでは?」
まず家族に相談する。
いち早く実家に帰る。
落ち着いて対策を考える。
だって普通ならそうします。
でも
「実家には戻れない」
何か特別な事情があるのか、そんな風にキッパリと社長は言ったのです。
とにかく既にホテルに暫くの滞在の予約は済ませていたのでした。
それと、この事はK氏はもちろん他の誰にも絶対に伏せておいて欲しいとも念を押されたのでした。
仕事は全て任せる、、、
これには、リニューアルの件とA氏との契約の事案も含められていました。
”あなたの判断に全て任せる”
僕は繰り返し何度も社長に確認したのです。
自分のことで頭が一杯の社長はきっと上の空だったのかも知れませんが、
答えは”あなたに全て任せる”
その一点張りだったのです。
訳も分からないうちに状況が一変した、、、
その時の僕ですが ”あなたに全て任せる”
どこまで言葉通りに受け止めていいものか、懐疑心いっぱいになっていたと思います。
真意を疑い探る、それまでの経緯を頭の中で辿り自己確認していたと思います
〜あの時ああなって、それでこう言って、そしたらこう言っていた、、、
だからやっぱり”あなたに全て任せる”は本当にその通り任されるんだ、、、〜
そんな風です。
“会社を任される”、、、
只それだけが心の中に響き渡っていて、心が昂るというかザワつくというか、
じっとしていられないというか、、、そんなわちゃわちゃな感じ。
正直、社長が抱えていたストーカー被害の問題など心の端っこにしかなかった。
僕の心の中はそんなダメな感じになっていたと思います。
その日の夜、僕は事の経緯を妻に話しました。
その時初めて社長の“男遍歴”を話したのですが、妻は少し面白がっていただけで
サラッと聞き流していた感じでした。
それで話を聞いた妻はこんな風に言いました。
「一任されたんだから大きなチャンスじゃない、、、頑張りなさい!」
そうして僕は尻を叩かれたわけですが、この任される事の重大さや、責任の重さがどういう事かよく分かっていなかったのです。
入社時から名刺の肩書きは副社長となっていましたが、いよいよ正にそうした仕事をすることになった僕は、何というか、、、言葉では表現できませんが一段と気が大きくなったのは間違いなかったと思います。
そうしてこの後直ぐ、、、僕の心に取返しのつかない大きな魔がさしたのです。
社長がホテルに“避難”してから間も無くの事でした。
銀行業務の詳細を引き継いでおきたいと社長から携帯電話に連絡が来たのです。
僕としてもA氏との契約詳細の進捗と内容の報告、承諾を得るなど諸々の業務確認が必要だった事もあり、わざわざそのホテルまで書類一式を持って出向いたのです。
当時の話です、、、
細かな事までは憶えていませんが、まず月末の銀行業務の詳細を教えられました。
通帳、キャッシュカード、会社の実印、銀行印、、、他にも謄本や印鑑証明など
会社にとって大事なもの全てしまってある金庫の番号まで教えられました。
そして僕はA氏との契約内容の報告を契約書の原案を照らしながら話しました。
今後の会社の方向性についても話した記憶があります。
その他の話の大凡は社長自身の近況と今後の対処でした。
。。。
それでその時、何がどうしてどうなったのか、、、
全く憶えていません、、、。
僕は社長と関係を持ってしまったのです。
取り返しのつかない大きな魔がさしたのです!
続く