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睡眠を巡る攻防、そしてその先にあった絶景(5)
決定打となったふくれっ面
長男は、私が家庭で困っている状況を話している間、憮然とした態度で顔もふてくされていたようだ。真横に座っていたから見えなかったのだが、先生たちは正面に座っていたから見ていたようで、このような長男の表情は見たことがないと驚いていた。
長男は納得がいかないと、無言であっても「なんで俺が責められないといけないんだ」と頭上に吹き出しが出る。私にとっては見慣れたものであったけれど、A先生もB先生も顔を見合わせながら「塾では見たことがない表情だな・・お前何て顔してんだ!?」「ほんまやな・・見たこと無い顔やな」と言っていた。この長男の表情は極めて不快と言っていい。
この長男の表情が決め手になったと思う。B先生が「こらっ!これまでも不正確に伝えるのはダメだって何度も言ってるぞ!」とガツンと長男を叱った。
長男の表情を見ただけで全てを悟ったように、「こらお母さん大変だわ・・」とおっしゃっていた。
逆に、塾ではかなり叱られてもいるはずなのに、この表情が出ていなかったということに私自身は驚いたのだった。
長男はやましい事をした自覚がある時にはこの顔にはならない。相手が理不尽で自分が被害を被っているように本気で感じている時にこの顔になる。
先生が自分で目覚ましをかけるように言ったら、それはその通りだったと認識したようだったが、親だってうんざりして「そんなに言うなら自分で目覚ましかけて起きろ!」と言っていたのだ。しかし親が同じ事を言ったときは、納得ではなく、協力してくれない意地悪な親とでも思っていたのだろう。
先生は長男の表情を見て状況を見事に察してくださったようだった。それで何度も念押しして、7時間寝るようにと長男を諭してくださった。また、これで絶対に親と先生、そして長男の間に齟齬はないからなと言い聞かせてくれていた。長男はようやく目を覚ましたようだった。
親への感謝を促され、同時に沢山褒められた
ひとしきり話したあと、今度は先生達が一転して長男のことを次々と褒めてくださった。A先生は関西ご出身のようで、私が関西弁を再現できないかもしれないが書いてみようと思う。
A先生:お前さ、お弁当、ちゃんと「ごちそうさま」って言って渡してんの?いつも「ブロッコリー入れすぎー」とか言ってんけど、ちゃんとお礼いわなあかんで。
私:ないですねー。むしろお弁当箱出し忘れて、翌朝こっちが出してくれって頼むこともあります。
B先生:そっちか~。
A先生:まずそこからやな。お礼ちゃんと言って、感謝せんと。今日お前、お母さん見て、どんだけ大変な思いしてんのか分ったやろ?そらお前がいかんかったで。
A先生:お母さん、ドラ君塾では手こんなんして(ごますり)、「先生、ちょっとお願いしますよ」とかやってきたりして面白いんですけど、家でもやってます?
私:あ、はい、機嫌も良くて仲良くやれてる時は家でもそんな感じなんですけど、落差が激しいというか、すごいボラティリティの高い生活してて、ほんとにこの子を育てててしんどいなって時もありますね。家ではどちらかというと、叱ることの方が多いかもしれないですね。ま、甘えっ子でもあるのでうまくバランスも取れてるとは思うのですが。
B先生:塾では承認要求は満たされていると思います。な、ドラ、お前塾は叱られるときもあるけど、認めるときは認めてるから、お前納得できるんだろ?
長男は「はい」と頷いていた。確かに家庭では、叱ると褒めるのバランスが悪すぎるのかも知れないと思った。長男は今や寝る時間を除いては、家より塾にいる時間の方が長いにも関わらず、先生達は長男と一緒に過ごしていて疲弊するどころか、ワクワクしているように見えた。
A先生:塾では本当にドラ君は躍動していますよ。授業が始まってすぐの時はまだちょっとうだうだしてる時もあるんですけど、集中し始めたら凄いです。あの集中力でやったら、家でも絶対宿題いけるはずやで、お前わかってるやろ?
先生はむやみに量を課している訳では無く、普段の長男のやれているペースを把握した上で、家でも同じようにやれば出来るはずと考えて出していたようだった。だから、家になると途端にペースが落ちすぎると逆に思っていたらしい。
A先生:俺らもわかっててさ、お前は回数少なくてもええし、量が少なくても問題ないと思う。ただ先生が言いたいのは、お前なら4回じゃなくて2回に減らしてもいい課題があったときに、むしろそっちを楽だからって4回やって、本来深掘りすべき別の課題を全然やらずに残してたりするやろ?そこを先生は指摘してるんやで。でも昔よりは本当に良くなってきてて、質も上がってきたのは分かってるから。良くなってきてるのは分ってる。
B先生:ほんまそう思います。昔は宿題もあっちこっち小細工して、やったように表面的に見せてくることがめちゃくちゃ多かったよなー。
A先生もB先生も腕組みして、本当にあの頃は・・と言いたげだった。親も全くの無知ではなかったものの、思ったより酷かったのかもしれないと思った。穴があったら入りたかった。
A先生:お前、今殻破りかけてるところやろ?あと一歩や。朝学習だってお前にその意志があるの分ってるから、なるべくならやらせたいってこっちも思ったけど、やるなら自分で起きてやらな、そらいかんわ。あと、週末の時間の使い方はもっと改善できるはず、そうやろ?塾での集中力でやったら、普通5時間かかる所、お前なら3時間で終わるわ。終わったらやりたいこと他にあるならやったらええし。
話していると、メールで受けていた印象とはだいぶ違った気がした。メールだと、他の子が大量にやって褒められていて、長男が努力が足りないと叱られていると、量ありきなのかと私自身が誤解もしていたのだろうなと思った(今もそもそもの量は多いし、容赦ないなと思ってはいるが)。
(6)につづく