さほど、焦らずそうめんをすくう
世界よ、日本には、流しそうめんというアトラクションがある。
あのか細きめんを、水に流してそれを箸ですくい、食すという何とも滑稽なアトラクションである。
器用にも日本人は、すごい速度で流れていくそうめんをすくい取り、冷たい出汁につけて食べる。
その間、何か会話をするわけでもなく、淡々と、そうめんをすくい続ける。
どうして、こんなにも食べにくいことをしているの?
とジョディは言う。
おかしいよ、日本人、そうめんだけならワタシは好きだよ、でも流すのは許せない。
彼女は日本に来てまだ間もない、箸を操る技術が単純に不足している。
流れていくそうめんをうまくすくえず、路地裏で涙を飲んでいたことを僕は知っている。
だからそう言う主張をしたわけではない、と彼女は言うが、信じられない。
それがきっかけになったはずだ。
オーケー、ジョディ、と僕は語りかける。
君のその主張は正しい。指摘は大変的確だ。けれどね、日本人はその流れるそうめんをすくうことで、虐げられた記憶を打ち消しているだ。僕らがそうめんをすくうたび、日本人の愛国心は取り戻されていく。そうさジョディ。
虐げられる?誰に?
というジョディの唇を僕は塞ぐ。