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気球に乗りたがる

カッパドキアである。
朝、気球が浮かぶこの都市では、気球は単なる交通手段である。
気球に乗って通学し、通勤し、商店に行き、生活する。
広い都市ではない、広いわけではなく、縦に長いのだ。
気球は横の移動にはやや心許ないが、縦の移動は実に効率的なのだ。
標高の高い斜面を切り開き、少しずつ伸ばしていった都市である。

気球に乗るために資格はいらない。
子供でも操縦できる。
火を強めれば登り、弱めれば下り、レバーを回せばそれで動く。

気球での移動が珍しいのか、観光客が多く訪れる。
観光客は気球を見て喜ぶ。
そんなに価値のあるものではないのに、と住民は思う。
けれど観光客も収入源であることに間違い無いのだから、そんな野暮なことは言わない。
観光客を気球に乗せてやる。
ホテルの5階のフロントから、37階の宿泊棟まで移動する。

もちろん、ホテルにはエレベーターもついている。
エレベーターに乗れば20秒で移動できる。
気球に乗ると2分、6倍の時間がかかるにもかかわらず、客は気球に乗りたがる。

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