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トラウマ治療③ブレインスポッティング
■これまでのトラウマ治療はこちら
トラウマ治療EMDR①面談|ターザヌ
トラウマ治療EMDR②|ターザヌ
今日から、いよいよつらさの根幹となるトラウマ症状を、EMDRで扱う。
と、その予定だったのだが、週末から地元で法事があること、弟とかなり久しぶりに会うことを話すと、そのストレス対策を先にした方がいいだろうという話になる。
法事のことを考えると喉元を締め付けられるような具体的な身体感覚があることから、ブレインスポッティングという治療法を勧められる。
透明なアクリル板に十字の線が書いてあるものを目の前に置かれ、その向こう側で、心理士さんが指示棒を動かしていく。EMDRよりも即効性が期待できるとのことである。
シマエナガの巨大ぬいぐるみは今回は私の隣に着席していた。60代男性の心理士さんは相変わらずジブリにでてきそうな風貌が推せる。
まずは十字の真ん中ををぼんやり見つめながら、法事で起こりそうな悪いことを考え、自分の感情を探る。中心で固定していた視点を、心理士さんの動かす指示棒について、ずらしていく。
すると、不思議なのだが、中央に視点を固定していたとき、ストレスもそこに縫い止めたのかと思うほど、指示棒が中央から外れるだけで心がみるみる軽くなっていく。指示棒に導かれて辛さも心の真ん中から逸れる、そんな感じがした。
治療を始める前は、法事のことを考えると喉元がきゅっとなる感覚と、もう一つは、これは日常的に私の中にあるもので、こぶし大の石が心臓の上に乗っかっている感覚があったのだが、ブレインスポッティングが終わった後に石の重みは感じられず、ただポッカリとした胸の中に、じわーっと悲しみが広がっていた。
だらだら泣きながら、今度は、近くと遠くを交互に視線を向けていく。一定のリズムで行ったり来たりするので、波間に翻弄されるような気分になり、終わると、波の後、砂だけが残ったような、ざらつき、むかつきがあった。
そのことを伝えると、
「悲しみが処理されて、その下の感情がでてきていますね」
うーむそうなのかな?確かに、言われてみれば悲しみはどこかへ行ってしまったようだ。
「今、法事のことを考えてみて、どうですか?」
「シンプルにめんどいな、嫌だなーって思います」
深刻さが軽減している。
次に心理士さんが、第二世代のEMDRとも呼ばれるフラッシュテクニックをするという。
この辺でちょっとボーッとしてきてしまっているのだが、「テンションのあがる曲は?」と聞かれ、「じゃあブリングバンバンボーンで」と答えたのは覚えている。娘が聴きまくっているために、私の日常のリズムをブリンバンに支配されていて、持ち前のカメのごとき動作がついつい速くなるという効能があるのだ。
すると心理士さんがおもむろにパペットを手に装着する。教育テレビにいそうなギョロ目カラスのパペットである。
「私がこれを前に出して、フラッシュ!と叫んだら瞬きしてください」
そして流されるブリングバンバンボーン。そのリズムに合わせて太ももを交互にタッピングしてくださいという。えっ、リズムまぁまぁ速いな。大丈夫そう?
とりあえず必死にRさんのラップに合わせて太ももを叩いていく。かなり集中しないと置いていかれるので、前のめりになって耳を傾けていると、横からからパペットをつけた心理士さんが、
「フラッシュ」
と叫んで顔を覗かせてくる。それがどうにも面白い。だめだ、にやついてしまう…。曲に集中しようとするが、一定間隔をあけて、心理士さんとカラスのパペットが「フラッシュ」と言いながら視界に滑り込んでくる。ぐっとにやつきを堪えなければならないし曲もますますテンションを煽ってくる。
その笑ってはいけない心理療法みたいな時間が終わると、どれが効いたのかもはや分からないけど、ざらつきが沈澱して雲間の光のような明るい気持ちが差していた。
「なんか旅行が楽しみになってきました」
私が言うと、まだ手にパペットをつけたままの心理士さんがホクホクと「家族旅行と思って楽しんできてください」と言ってくれる。
私が楽になれる手伝いをしてくれるばかりか、効果があると喜んでもくれるって、毎度だけど心理士さんの仕事って尊すぎる。
この短時間で身体感覚がくるくる変わり、感情の質感もまるで違うものになってしまった。(しかし一日後、かなり不安定な状態にもなった。心臓に乗った石の重みは今は復活している)
終わりに、分かり合えない家族について、「種族が違うと思えばいいんですよ」とアドバイスを受け、マサイ族にとって牛のうんこがどれほど大切かという話を聞いた。
ふむ、うちの実家が肩書きに固執するのは、マサイ族が牛のうんこに固執するのと同じことだと思っておこう…。
これを書いている今、都内のホテルにいる。法事がどんな結果になっても、心理士さんに相談できるのが心強い。noteにも書けるしな!がんばろう…。