
「ゆる受験」についての一考察
都市部など一部で中学受験が過熱化している中、今まで以上に多様な層が受験に参入し受験生の裾野が広がっているようにみえます。
少子化が進んでいるのに、中学受験人口は減るどころか堅調に推移しているのがその表れ。
低学年から準備する家庭もあれば、小5あるいは小6になって急遽参戦というケースもあると思います。
「親にとっても子にとっても中学受験は長く、辛く、過酷で負担が大きい」という情報にいろいろな場面で接します。
子どもの受験に対しては各家庭でいろいろな考え方があると思いますが、その中の一つに、受験に費やす時間と労力を極力抑えて志望校を目指したい、という考えも。
受験勉強する期間が短く、費用も安く済ませることができ、難関校でなくても中堅の私立中なら無理せず入れて、高校入試の心配なく6年間過ごせる。
それが実現できるのなら、手軽で魅力的だと感じる家庭もあるかもしれません。
実際、小5くらいから始めて、Y偏差値50前後の中堅校を志望校のターゲットとして想定する、「ゆる受験」というコンセプトがある。
大規模有名塾とは一線を画し、それをウリにする塾もあります。
それを推奨したり批判するつもりはありません。
子どもの中学受験を経験した一人の親の感想を述べたいと思います。
なんとなく、中学入試では小学校でやる内容から出題されるのだから大したことはない、というイメージがあるかもしれませんが、全くそんなことはなく、中学や高校で履修する範囲や内容に匹敵します。
実際に中学入試問題を見てみればすぐにわかります。
主な有名塾の教材を見てみるもいいと思います(四谷大塚の予習シリーズは購入できます)。
これだったらできそう、と思えるか。
中学受験界において、「平均的」(すなわち偏差値50前後)なレベルを保つには、他の受験生並みの勉強が必要と考えるのが常識的。
多くの受験生は小4からスタートするのが標準的なので、小5から始めると、丸1年分ビハインドした状態から、5・6年生の2年間で追いつかなければならない。
ゆるい受験どころか、短期集中の詰込み型になる可能性があると思います。
「でもそれって難関中を目指す場合では?中堅ならそんなことはない?」
中堅校の入試では基礎的なことが中心なので、基本知識と基本パターンさえしっかりおさえられれば、何とかなるのではないか。
そう思うかもしれません。
問題は範囲の広さ。
例えば理科なから、生物、物理、地学、化学の各分野があり、社会なら、地理、歴史、公民、時事問題とかなり広い範囲に及びます。
算数は、例えば、四谷大塚の予習シリーズの解法パターンは1回あたり6個程度、中学受験に必要な単元(小4と小5の2年間、総合抜きで合計64回分)だけで384パターン!
基礎知識と基本パターンだけでも大変な労力と時間がかかると想像できます。
基礎・基本=カンタンなこと ではありません。
一つ一つ覚えようとすると、忘却曲線との戦いになりますし、根本から理解しようとすると時間がかかります。
逆に言えば、基礎と基本をしっかり身に付けることができれば、応用問題が解けることを意味します。
従い、基礎的なことに絞れば時間が短縮できる、とは限らないと思います。
それほど時間をかけずに基本的なことを習得できる子もいると思いますが、そうした子は中学受験の適性がある子だと思います。
他の子より短い準備期間で同じレベルに達したとすれば、他の子と同じ期間やれば、もっと高いレベルに達したといえるかもしれません。