男性更年期障害(LOH症候群) 各論Ⅰ
さて、LOH症候群の各論には入ります。
先日書いたように、症状は大きく3つに分かれており、身体症状・精神症状・性機能があります。
今回はそれら症状について、ガイドライン(診療の手引き)に沿って詳しく書いていきますね!!
①身体症状
発汗
ほてり
睡眠障害
記憶・集中力の低下
肉体的消耗感
筋肉量と筋力低下による除脂肪体重の減少
骨塩量の低下
これらに関してもっと掘り下げてみようと思います。
除脂肪体重の減少→メタボへ
加齢とともに体脂肪(主に内臓脂肪)は増加します。
そして、これまでの研究によりテストステロンが内臓脂肪量と関連することがわかってきています。
テストステロンが減ると内臓脂肪は増えるんですね。つまり、テストステロン低値が肥満を助長させます。負のスパイラルですね。
このように、LOH症候群ではテストステロンが豊富な男性に比べて、脂肪量の割合が高く、除脂肪量が少ないことが示されています。
フレイル・サルコペニアとの関連
フレイル・サルコペニアって難しい言葉ですよね、、
簡単に言うと、
フレイル:筋力や心身の活力の低下による健康と要介護の間の虚弱な状態
サルコペニア:筋肉量が減少し、筋力や身体機能が低下している状態
ややこしいですよね。。
フレイルの方が幅広いことを言っていて、身体的だけじゃなくて精神的・社会的・心理的にも虚弱な状態を含むんです。
要は、サルコペニアはフレイルに含まれると考えてください。
近年、フレイル・サルコペニアについて、テストステロンとの関連が明らかになってきています。
わかりやすい論文があったので、実際に見ていきましょう。
・高齢者の遊離テストステロン(free testosteron : FT)と骨格筋量や筋力の関係
Aのグラフは縦軸が筋力、横軸が年齢になっています。
Bのグラフは縦軸が除脂肪量、横軸は同じく年齢です。
→加齢により筋力・除脂肪量とも減少するのがわかります。
次に、テストステロンと年齢の関係について。
グラフの見方は先のものと同様ですね。
加齢によりテストステロン量は下がっているのがわかります。
続いて、テストステロンと筋肉量の相関に関して。
テストステロンと筋肉量(大腿四頭筋の筋肉量)が正の相関関係にあることがわかります。
以上3つのグラフから(いずれも同じ論文からの提供)、加齢によりテストステロン量は減少し、それに伴って筋肉量(大腿四頭筋)も減少、結果として加齢により筋肉量が落ちることがわかります。
大腿四頭筋は身体の中でも大きな筋肉です。そして歩行に大きく関わる筋肉ですから筋肉量が落ちると転倒のリスクになることが推測されますよね。
高齢であるほど、転倒は死につながります。それは転倒→骨折→入院→運動量の低下→全身のサルコペニアが進行するからです。。
他の論文でも、
・総テストステロン(total testosteron : TT)とFTが脚進展力と正の相関にあること
・TTが握力と正の相関関係にあること
が示されています。
骨粗鬆症との関連
血中テストステロンの低下と骨密度の低下・骨折頻度の増加とは正の相関があることが、多くの論文から示されています。
テストステロンは男性ホルモンです。男性ホルモンに依存する癌に前立腺癌があります。
前立腺癌は現在世界で、そして日本でも男性の癌罹患者数第一位なんです。
その前立腺癌の治療として男性ホルモンを抑えると、やはり骨粗鬆症や骨折を引き起こすんですね。
②精神症状
知的活動・認知機能・見当識などの低下
気分変調
睡眠障害
などが挙げられます。
これらの症状は、テストステロンの低下により直接的に起こる他、内臓脂肪の増加や体毛・皮膚の変化などの身体的変化により二次的な精神症状として、さらには体力低下に伴う仕事量の低下や身体的変化による他者との関係性の変化など社会的な要因による三次的な影響として起こる可能性もあります。
血中テストステロンの低下が中程度進行した状態で、精神症状が出現する可能性があるようです。
うつ症状・認知症状との関連について見ていきましょう。
うつ症状
結論から言うと、
“血中テストステロン値とうつ症状には一定の関連があるが、全てのうつ症状がテストステロンのみで説明できるわけではない。精神疾患との併存も念頭において診断・治療にあたるべき”
とのことです。
これはガイドライン(診療の手引き)にそのまま書かれている文面なのですが、どっちつかずですよね、、
それほど鑑別は難しい、両者症状が似ているってことです。
ガイドライン(診療の手引き)に載っている論文をピックアップしてみます。
まずは、テストステロンの低下とうつ症状に関連があるとしている報告。
・テストステロン値が低い群は正常群よりも約3倍多くうつ病の診断が下される
・血中テストステロン値はうつ病患者では低値である
・加齢に伴うテストステロンの低下はうつ症状、不安、イラつきなどを生じる
一方、その関連性を否定している報告
・TT低値とその後のうつ病発症リスクに関連はない
こうやって見てみると、最近書かれている論文・報告は“発症に関連がない”と言う流れ、、?
まとめると、テストステロン低下により症状は出得るが、うつ病の発症まではいかない、という感じかな、、、
今後の新たな報告に期待ですね。
結局は、疾患が併存する可能性はあるので、念頭に置かないといけないと言うことですね。
認知症
テストステロンの低下は認知機能低下や認知症発症と関連するという報告も近年増えているようです。
それら報告の中には、日本人を対象としたものもあります。
また、テストステロンは記憶中枢である海馬において強い作用を持つことも知られています。
さらに、認知症の原因とされているアミロイドβに対する神経保護作用を持ち合わせているとされており、認知症機能改善に関連するようです。
これらのエビデンスから、今後実際にテストステロン投与による効果を示した報告や臨床研究が出てくるのを待ちましょう。
③性機能
テストステロン低下に最も特異的とされているのが性機能症状です。
性欲の低下
ED
その他 (オルガズム低下、遅漏、射精障害、射精量の低下)
があります。
性欲低下(リビドー)とテストステロン
最も典型的なLOH症候群における性機能症状であり、多くの報告や研究から明らかのようです。
具体的には、
・テストステロン低値はリビドー低下のリスクを2倍にする。
・テストステロン補充療法によるLOH患者のリビドー改善度は、テストステロン欠乏の程度と直接相関する。
などの報告がありました。
EDとテストステロン
テストステロン低下が陰茎血流の減少や勃起機能の低下に関連するという報告がある一方で、テストステロンとEDの関連性を否定しているものもあります。
つまり、一定の見解は得られていないようです。
要は、勃起機能に関しては心因性など他の要因もあり、ちゃんとした評価がより難しってのも一因なんだと思います。
しかし、LOH症候群(加齢男性・性腺機能低下症)診療の手引きには“EDを訴えるLOH症候群患者において、TRTが患者の勃起機能を有意に改善させることがメタ解析によって示されている”と記載があり、かつED診療ガイドライン第3版でも、テストステロン低下を伴うED患者に対して、TRT(テストステロン補充療法)を強く推奨しています。
これより、TRTの有効性がわかります。
ですので、該当するのであれば治療する価値はあるのかもしれませんね。
その他の性機能症状とテストステロン
あくまで可能性に過ぎないようですが、TRTによるオルガズム機能改善効果、射精障害改善効果があるようです。
まぁ正直その場の盛り上がりとか色んなバイアスがかかりそうですもんね笑。
流石に正当な評価は難しそうです。。
以上、今回はLOH症候群の症状について具体的にガイドラインに沿って解説しました。
こう見てみると、エビデンスとして“一定の見解が得られていない”ものが割とありましたね、、
ただ、今後も患者数は増えるでしょうし、もっと新しいエビデンスが増えてくるのだと思います。
みなさんどうだったでしょうか。
また更新していきますね!!
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