そこそこ読書「もっと知りたい エル・グレコ 生涯と作品」 大髙保二郎 松原典子 著

 エル・グレコというのは1500年頃に活躍した画家の名前である。この本は彼の描いた作品の解説書である。非常にコンパクトで内容は分かりやすくまとまっている。絵もふんだんに使われており、誰がどんな絵を描いたのかという事を知るだけでも良い刺激になる。と思う。

 美術の本は難解である。美術そのものの理解をする前段階の話になるが、絵画について知ろうと思うならその前に歴史や地理の勉強をしなくてはいけない。どういった目的で作られたのかという事を考えるには、今はないような地名や国も出てきたりする。時代によっては同じ場所でも治めている国が変わっていたりするからだ。

 地理や人名を覚えるのが苦手な私にとっては非常にハードルが高い。どこで何があったのかという事だけでも覚えるのが大変なのに、著者の解釈や思いが入ってくるともう訳が分からなくなる。そんなことをしていると肝心の絵は蚊帳の外になってしまう。

 それはこの本が悪いというわけでは決してない。むしろ、文字だけの解説書よりも非常に分かりやすく一般向けだと思う。
 が、私の常識があまり通用しない。例えば、社会問題に関しては私達の知っている知識がそのまま使えるのだが、読み解く上では先ほど書いた通りに当時の歴史や価値観を持てなければ読み解くことは出来ない。

 そう考えると芸術という単位は存在しないかもしれない。恐らく歴史と人と経済(他にもあるのだろうが)が複合した物である。おそらく絵画だけではなく芸術の類すべてに言えそうである。それを相対的に未来の視点で見ているからこそ研究の価値が生まれているのかもしれない。
 
 美術とは自分の内側の五感や意識、感情の探求や表現、入力による刺激と変化に他ならない。利用の仕方によって様々な名前になる。(売ると商品、歴史的に考えると資料、宗教に使用すると宗教美術)
 私はこれらの必要がないとも感じない。同時に個人として付き合うなら実際に表現したほうが自分に還元される。表現の延長の中でしか純粋に美術としての価値は無いのかもしれない。
 見る、知るという事はつまりは教養である。研究するとは他人の思いに近づくという事でもある。

 芸術の類が全く理解できない自分にとってはこれらがどこにも存在しないのと変わりがないといえる。

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