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月の光 揺蕩う  (ショートストーリー お題:だろう温泉)

 東北の、雪深い山奥であります。
 ささやかな渓谷のあいだ、大きな岩も落ちています。
 岩なんかはもうずっとずっとそこでいて、流れ来る水に語らい、いつしかゆるくほどけてしまう、そんな川でございます。

 春は雪解けのあまい、透き通る水が小さな流れを辿ります。

 川は生まれ落ちたばかりの赤子のような真実でもってお月様に恋をいたします。
 そうして岩に囁くのでした。
 ねぇ あの美しい光はなぁに、ああわたしのものになってくれないだろうか。

 岩は申します。だめだめ。あれは天女だ。夜明にはちりんと、それは美しい一粒のかがやきを残して行ってしまうんだから。
 天女は空を透かすつららが、夕日を閉じ込めたまま溶け出したような川に、沐浴に降りて参りました。

 あたりは、溶け出した夕日の名残やら天女に纏わりついて遊ぶ月光やらで楽しげです。
 川の水はあんまりうれしくて沸き立ちます。

 それを見ていた八吉猿が横の子猿に申しました。
 いい頃合いに火照ったよ。知っているだろう、温泉。
 子猿は申します。
 父さま。だろう温泉でございましょう?
 
 
 


参加させて頂きます!
たらはかにさま
よろしくお願い致します。

#毎週ショートショートnote #かもしれない弁天 #だろう温泉


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